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98年2月 JEIDA駐在員・・・長谷川英一
米国におけるコンピュータ2000年問題の現状 -7- |
5.州政府におけるY2Kへの対応
(1) NASIRE(National Association of State Information Resource Executives) 州情報資源管理者全米協議会とでも訳したら良いのだろうか、各州のCIOの協議会であるこのNASIREが、Y2K対策についても州政府間の情報交換や連邦政府との調整を行っている。NASIREがY2K問題について検討を始めたのは96年7月頃からであるが、最近の主立った活動として、97年10月28日にピッツバーグで開催した“State-Federal CIO Summit on the Year 2000”を上げることができる。このサミットには41州及びカナダ、プエルトリコのCIOと21連邦政府機関のY2K担当の代表者が出席した。議論はインタフェース、相互認証とテスト、そして電子ブリッジという3テーマについて行われ、以下のような結論を出している。 1 年データを4桁で交換するフォーマットを連邦及び州政府は採用する 2 98年12月31日を相互データ交換インタフェースのための政府Y2K対策の期限とする 3 OMBのサリー・カッツェン情報・規制室長とNASIREのジョン・フリン会長(カリフォルニア州CIO)が共同議長となる政策ワークグループで、今後の両者間のY2K対策の調整を行うこととし、その下にY2K対策についての提案を行うための技術ワークグループも設置する NASIREのフリン会長はこのサミットは「Y2K問題を取り巻く様々な複雑な課題を解く上で大変良い出発点になった。我々はそれぞれ州及び連邦政府のために前向きの努力を行ってきたが、さらなる行動のために力を合わせることとした。我々は常にデータ交換を行う必要があるため、政府のあらゆるレベルでY2K問題についての手続きや期限について相互に合意していくことが不可欠である。サミットの結論として設置されることになったワークグループがこれらを実現することになる。」と記者会見で述べている。 その他NASIREは、啓蒙活動として各種のレポートやビデオの配布や、シンポジウムの開催等を行っている。最新の各州のY2K対策の進捗状況レポートによれば、23州が未だ評価の段階にあり、4州が計画及び改修の段階、19州が改修及びテストの段階にあるとしている。 また、各州のY2K責任者のリストをウェブ上で公開するとともに、各州のY2Kホームページへのリンクもしているが、今のところホームページを有している州は29州に上っている。
因みに、ニューヨーク州のY2Kホームページを見てみると、連邦政府のY2Kページにも勝るとも劣らないような充実ぶりである。州のOffice for Technologyが州内のY2K対策の調整についての責任を有しており、96年4月に“Year 2000 Data Change Initiative”を策定することで、州内のY2K対策努力の重複を廃し、総合的な解決への第一歩を踏み出している。 それに続き、州政府機関の担当者から成るステアリング・コミッティーの設置(96年4月)、IBM、ユニシス、中型機、PC/LAN等のプラットフォーム別ワークグループの設置(6月)、プロジェクト・キックオフ・セッションの開催(7月)、ホームページの作成(9月)、州全体のリスクアセスメントの実施(9月)、州政府機関幹部に対するY2K啓発セミナー(11月) 、Y2Kサービス・ベンダーのリスト策定(11月)、地方政府(群、市等)へのY2K啓発資料送付、州政府機関へのプロジェクト・マネージャー指名及びコンティンジェンシー・プラン策定の指示(12月)、今後3年間のY2K対策予算5,000万ドルの要求(12月)、州のトップ40プライオリティ・システムの指定(12月)、と96年中にも矢継ぎ早に対策を打ち出している。 さらに、Y2Kワークショップ及びベンダー・フェアの開催(97年2月)、Y2Kコンサルティング・サービスを受けるための契約書式例の策定(3月)、連邦政府との情報交換(3月)、トップ40システムの四半期毎の対策進捗状況報告の発表(4月)、Y2K対策要員の確保と増員のための戦略の策定(4月)、地方政府のY2Kプロジェクトチームの発足(5月)、Y2K契約書の実例の公開(5月)、Y2Kプロジェクト・マネージャー会議での各機関での進捗状況調査実施の決定(6月)と続き、そして7月にはジョージ・パタキ州知事が州政府全機関に向けてY2K問題にかかる通達を発出している。 この通達において、パタキ知事は、Y2Kがニューヨーク州の最優先技術課題であると宣言し、以下の4つの命令を出している。1. Y2K対策の促進に影響を与えるような新たな技術イニシアチブ開始の禁止(モラトリアム)、2. 各州政府機関システムは当該機関が責任を持ってY2K対応を図ること、3. Y2K対応でない新システムの導入禁止、4. 州政府機関によるソフト、システム等の調達は全てY2K対応のものに限ること。そして、モラトリアムの精神に照らし、機関内の現行の技術イニシアチブをレビューし、不要不急のものは停止するよう強く求めている。 このように州知事レベルで非常宣言が出されるなどは、あまり例がないことであろうが、実際の進捗状況報告が公開されていないのでわからないが、州のハイレベルでもこの進捗にかなりの危機感を持っているのではないだろうか。実際、9月12日付けのフィナンシャル・タイムズ紙は、「ニューヨーク市はY2K対策に良く取り組んだ都市でありながら、(そのインフラストラクチャーの巨大さから)2000年には大きな混乱に直面するだろう」と占っている。 なお、ここでニューヨーク州を例に取り上げたことには特に意味がなく、進んでいるか遅れているかの州の例を示そうとしたわけでもない。各州のホームページを覗いてみると、どこも概ね類似の対策を立てているようであり、ニューヨーク州はどちらかと言えば遅れている方なのかもしれないが、真剣に取り組んでいる州の一つであろう。日本の自治体がどこまでこのような対策をとっているかは良く知らないが、各州においてこれだけの取り組みが行われていることに感心せずにはいられない。なお、このような州のY2Kホームページは単に州民に対する情報公開のためだけでなく、例えば契約書式をダウンロードできるなど州政府内のイントラネットとしても機能しているようである。(私の知る限り、まだ日本の各自治体のウェブは「県民の皆様へのお知らせ」程度の機能しかないのが残念である。もちろん霞ヶ関のウェブも似たり寄ったりであるが。) |
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