98年2月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるコンピュータ2000年問題の現状 -6-


(2)政府による具体的なY2K振興策

1.SECによる情報公開の指導

SEC(証券取引委員会)から、“Staff Legal Bulletin No.5(97年10月8日発表、98年1月12日改訂)”という4ページ程度のペーパーが出されている。これはSECの企業財務・投資経営課の課員の見解をまとめたものであって、規則でも、SECによる公式な見解でもないとの注意書きが添えられているが、言わば「指導通達」のようなものである。

これによると、Y2K問題は全ての企業にとって、その対策に失敗すれば業績にマイナスの影響があるという性格を持つものである。従って、SECの四半期報告では、通常要求されている報告項目に影響を与えるような情報は全て公開するように求めていることから、Y2Kに関する情報公開もしなければならないことになろう(may have to)としている。

具体的なY2Kに関する情報公開は、四半期報告中の「当期ビジネスの概況」と「財務状況及び業績に関する経営陣の議論と分析」の項の中で、Y2K対策がビジネス全般に与えた影響、対策に要した費用とそれが財務に与えた影響、また、Y2Kが将来の財務等に与える不確実性なども記述することが適当とされている。(Y2K対策費用は96年7月に、損金として計上することが認められている。)

加えて、Y2Kの重要性が高いと判断される場合には、「特別な情報公開の考察」という項の中に、さらに以下も記述することが期待されている。

・ Y2K対策の総合プラン、これはそのビジネス、経営との関連、さらに必要で有ればカスタマー、サプライヤー、その他の要素との関連で記述されるべき。また、それらプランの実施タイムテーブル。

・ Y2K対策の予想費用、これはその費用が企業のビジネス、経営、財務に実質的な影響を与えると予想される場合に記述すること。さらにこれらの費用が企業の業績、流動性、資本にインパクトを与えるならばそれについても記述のこと。


2.調達

連邦政府のY2K対策の具体的な行動として、連邦政府の調達規則の中に、Y2K対応の要請を含めるというものがある。

最初の動きがいつであったかははっきりしないが、上述のOMBカッツェン室長の96年6月のメモにも既に調達時の注意が現れている。96年6月12日に開催された、連邦政府機関全体のY2K連絡会で、GSA(総合サービス庁)が提示した、“Recommended Year 2000 Contract Language”のドラフトが暫定承認されている。これは、政府機関がコンピュータ等を購入する際に、契約書の中に含めるべき条項の例を示すもので、それ以降、各機関で使われてきたものである。最終的には97年8月22日に、連邦調達規則の改訂に併せて、最終版が公表されている。その条項を要約すれば、「契約者はこの契約書の下で納入するハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア製品が、20世紀と21世紀の間、1999年と2000年の間、そしてうるう年において、日/時間のデータ処理を正確に行うことを保証する」というもの。

一方、連邦調達規則自体も97年1月2日にY2K対応を入れた暫定改訂規則が出されており、これが8月22日に最終規則となり、97年10月21日に発効となっている。改訂規則には“39.002 Definitions”と“39.106 Year 2000 compliance”の2条項が加えられている。

前者の定義を訳すと、「2000年対応とは、情報技術に関し、情報技術が20世紀と21世紀の間、1999年と2000年の間、そしてうるう年において、日/時間データの処理(計算、比較、順序づけを含むがこれに限らない)を、調達される情報技術との連携で使われる他の情報技術が、それと日/時間データを正しく交換するという程度まで、正確に行うということを意味する。」ということになっている。後者の条項は、上述のような契約を行うことを連邦機関に義務付けるものである。

さらに調達については、上述の動きをベンダー側に分かり易くし、さらに協力を求めるための公開書簡を出している。これは97年12月17日付けで連邦政府CIO協議会のエド・デザーブ会長(OMB)とアル・ペサチョウィッツ副会長(EPA)の連名でIT産業宛として公開されたもので、以下のような内容である。

「連邦ITのY2K対応を行うため、これまでいくつかのステップを踏んできた。97年1月にはCIO協議会は連邦機関が2000年非対応の製品の調達は行わないことを申し合わせた。8月22日には、連邦調達規則の中に、2000年対応の詳細な定義を含めた。10月10日には大統領が、この趣旨を入れた98会計年度連邦予算支出承認法案に署名したため、この要求は法的義務となった。

また、連邦政府内で商業的既製製品(パッケージ・ソフトなど)を調達する際に、それがY2K対応をしているかどうかの情報を知らしめるため、CIO協議会はウェブ上にデータベースを構築した(http://y2k.policyworks.gov)。12月1日から利用可能になっているが、ベンダー企業に、さらにこのデータベースに製品を登録してもらうことを招請したい。(実際に「データベース」と言うキーワードで検索したところ、IBM社のDATABASE2以下、7つの製品名が現れた。)

加えてGSAも、連邦機関の調達に資するため、ベンダーにY2K対応製品のオファーを行うように招請している。これらのオファーされた製品は連邦サプライ・サービスのデータベース上で見ることができるようになっており、Y2K対応製品についてはYear 2000ロゴで明示している(www.gsa.gov/fssintro.htm)。」


3.標準

Y2K問題がそもそも生じることになった情報処理における年データの取り扱いについては、96年3月25日付でNIST(National Institute of Standards and Technology)が、当該標準に関して以下のような提案を行っている。

「年データに関する標準は、全米標準協会(ANSI)がANSI X3.30として1985年に発行したものを連邦政府が連邦情報処理規格(FIPS)4-1ということで承認したものが使われている。この規格は年データを4桁表示するということができるようになっているのだが、世紀の部分を省いて年の部分の2桁表示をしても良いというオプションを持つため、そちらが実際には使われてきた。NISTとしては、規格というのは様々な異なった状況に適用されるという観点から、ANSI自体の持つオプションを変更することはしないが、連邦政府のY2K対策支援のため、FIPS 4-1の方に次のような変更のノートを加えることにする。

――米国政府機関間の電子データ交換の目的のためには、NISTは4桁の年表示を採用することを強く推奨する。加えて、ANSI X3.30-1985に規定されているオプショナルな年の2桁表示は米国政府機関間のいかなるデータ交換においても用いてはならない。」

なお、余談だがNISTのY2Kホームページを見ると、NISTが開発したY2K対策用のソフトウェアが無料でダウンロードできるようになっている。何と親切な役所であることか。
(www.nist.gov/y2k)

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