98年3月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国産業におけるIT活用の動向(前半) -6-


C.コンピュータ・システム業界

 コンピュータ業界は、産業界に先端的なITを提供しているばかりでなく、自らの業務にも進んでITを応用し、その洗練化を図っている。Information Week誌が行ったアンケート調査によると、大手コンピュータ・メーカーは平均して売上の4.5%をITに投資しており、これは全業種を通じて最も高い水準であるという。また、ITコンサルタントのクーパーズ・アンド・ライブランド(Coopers and Lybrand)社によれば、ハイテク企業の70%が向こう1年間にIT投資を拡大する計画を持っている。

このように、コンピュータ業界がITを積極的に活用している理由の一つとしては、新しい技術や製品を自ら取り入れて効果のほどを実証する必要性もある。例えば80年後半、サン・マイクロシステムズは、社内ネットワークをIBMのメインフレームのシステムから自社製ワークステーションのクライアント/サーバ型システムに一新し、新しい技術が大企業の情報システム・ニーズにも十分通用するものであることを示した。

 コンピュータ業界でさらに特徴的なのは、従業員が技術に関する知識が豊富で、高度なビジネス・アプリケーション(とりわけインターネット関連アプリケーション)に通暁しているという点である。以下の実例の中でも紹介するように、コンピュータ業界はエレクトロニック・コマースを含むインターネット・ベースのアプリケーションの導入が最も成功している業種である。年間成長率が30%前後というように、他では見られない急成長を見せるハイテク企業にとって、組織の大小に関わりなく導入できて簡単に拡張できるインターネット/イントラネットは、正ににうってつけの技術であるといえる。このように、コンピュータ業界は、新しい技術を開発しては自らその実験台になるというプロセスを繰り返しながら、ビジネスITの革新に貢献しているのである。


事例(5)
シスコ・システムズ(Cisco Systems)
 ネットワーク・ルータ製造者で、特にインターネット・ベースのネットワーク製品に注力。97年売上高64億ドル。(IT予算非公開)

ITプロジェクト:シスコ製品のオンライン販売専用ウェブサイト「シスコ・コネクション・オンライン(CCO)」(96年8月開始)

推定コスト:初期投資5,000万ドル、運営コスト1,000万ドル。専従スタッフは10名で、システム立上げ時には情報システム部門からも90名が参加。

技術内容
 ウェブサイトのホストは、「サン・エンタープライズ・サーバ5000」2基を使用。保存容量は10ギガバイトで、OSには「サン・ソラリス」を、サーバ・ソフトウェアには、エレクトロニック・コマース対応の「ネットスケープ・エンタープライズ・サーバ2.01」を使っている。ウェブサイトは、専用ミドルウェアを介してオラクル製のERPアプリケーション及びデータベースと統合化されている。

プロジェクト概要
 CCOは、エンドユーザーと再販業者(インターネット・サービス事業者、システム・インテグレータなどを含む)にシスコ製品を直接販売するウェブサイトである。注文受付機能の他にも、顧客の質問に自動対応する機能も持っており、ハードウェアの問題点を平易な表現でインプットすると、シスコのノレッジベースから数通りの解決案が引きだせる。また、ソフトウェアの非互換などに対応するためのソフトウェア・パッチを、必要に応じて顧客のハードウェアに直接ダウンロードできる機能もある。

主な成果
 CCOは、オープンからわずか1ヵ月で1日の平均売上が30万ドルを記録した。現在、登録ユーザー(約700社)と一般顧客への売上を合わせた取扱高は1日あたり900万ドル、年間で30億ドル(総売上の40%)に達し、シスコを最大のウェブコマース事業者にしている。ウェブを使った通信販売で第2位にランクされるデル・コンピュータの1日当たり売上が300万ドルであることを考え合わせると、シスコの実績がいかに群を抜いたものであるかが理解できるであろう。また、顧客サービス・アプリケーションは、97年9月の1ヵ月間だけで24万件の問い合わせに対応しており、同社の全顧客サービスの3分の2を占めている。

実施企業及び顧客へのメリット
 シスコの成功は、オンラインによる注文受付システムが、従来の紙ベースのシステムに比べて飛躍的に高い効率化を達成できることを証明した。紙ベースの注文受付システムの場合、人為的ミスが25%の割合で生じていたが、ウェブサイトを開設したことで、この発生率はゼロに近くなっているという。さらに、社員約1,000人分の対応作業を自動化した顧客サービス・アプリケーションの効果と合わせると、CCOが同社にもたらしたコスト削減効果は初年度だけで2億6,800万ドルに上ったと推定されている。

 また、シスコ製品の顧客にとっても、注文の品が確実かつ正確に届き、配達までの日数が短縮されるというメリットが生まれており、エンドユーザーと再販業者の両方から支持を集めている。同社は、ウェブサイト・ビジネスの比率を総売上の6割にするという計画の下、再販業者の持っているERPアプリケーションをCCOとダイレクトに統合化するソフトウェアの提供を行っている。これは、シスコ製品の在庫が一定レベルを切ると、ERPアプリケーションが自動的に追加注文を行うというシステムで、SAP、オラクル、ピープルソフトのERPパッケージに対応できるミドルウェアが揃っている。同社は、このような戦略によって、98年7月までに年間50億ドルの規模にまでウェブコマースを拡大する目標を掲げている。

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