99年6月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるオンライン・プライバシー問題への取組み -2-


(2)現行のプライバシー関連法

 上述のKatz裁判を境にプライバシー権の法的保護についての議論が高まり、1970年の「Fair Credit Reporting Act」を皮切りに特定分野を対象にしたいくつかのプライバシー保護法が制定された。また、個人情報を最も多く有するのは政府であることから、政府によるプライバシー侵害が起こらないようにするための「Privacy Protection Act」も1974年に制定されている。以下に主要な法律の概要を示す。

1. Fair Credit Reporting Act(1970)
1970年に制定された当時は、金融機関、信用調査会社などの個人情報提供会社が個人情報を取り扱う際に、当該個人の閲覧を可能にし、修正を行う仕組みを作り、かつ認定された第3者にのみ譲渡可能とするなどを規定していた。97年に大幅に改定され、消費者が自らの信用情報の保護や修正に関し、より広い権利を持てるようになっている。主要な条項は以下の通り。


  • 信用情報提供者は情報の正しさを保証しなければならない。
  • 信用情報提供者は保険会社、抵当権設定会社、クレジット・カード会社等に個人情報(信用情報以外に収入、家族情報などにも拡大)を提供しても良い。但し、それらの情報は正確でなければならいし、当該情報の機密性、先方の使用目的を十分に考慮した後のみ、提供することができる。
  • 個人情報の利用側は消費者に対して、不利な手続き、行動等をとる場合、消費者に個人情報が判断の基であった事を知らせる義務がある。また、消費者がその情報が正しいものであるか検証するために、情報提供者を知らせなければならない。
  • 個人情報の用途は、消費者が自分や家族のためにクレジットや保険などを開設しようとする場合、当該個人を雇用しようとする場合、その他法律で定めることに限定される。
  • 消費者は予め断ることで、クレジット・カードの勧誘といったダイレクト・マーケティング等に対する拒否を選択できる。(この「Opt Out」の拒否権供与方式にするか、「Opt In」の消費者による許可を義務付けにするかの両方式はインターネット上の情報収集において争点となっているところ。)
  • 雇用者が雇用に際し、被雇用者候補の個人情報を情報提供会社から購入し使う際には、被雇用者からの同意を取り付ける必要があり、またもしその情報により不採用とする場合は、当該情報を候補者に示さなければならない。
  • 消費者は、個人情報が不完全か誤っていた場合、情報提供会社に対し、情報の修正を要求する権利がある。
  • 不正な情報提供や使用は罰せられる。
  • FTC(連邦取引委員会)が、本法を遵守させるための強制力を持つ。


2. Privacy Protection Act of 1974
連邦政府機関が保有する個人情報の保護を規定する法律で、「アクセスの権利」及び「修正の権利」はその後のプライバシー関連法律の多くにも採り入れられている。これまで修正は何回も成されている。主要な条項は以下の通り。

  • 情報公開の条件:いかなる連邦機関も個人情報を業務に必要とする職員以外の職員や他機関に公開してはならない。もし公開する必要がある場合は当該個人の事前の了承を得なければならない。
  • 公開の管理:各機関は管理下の個人情報について、他の職員や他機関に公開するときは、公開の日時、目的、相手の氏名等を記録保持しなければならない。
  • 個人情報へのアクセス:各機関は個人の要請に応じて個人情報を閲覧させ、誤った情報については修正をしなければならない。
  • 各機関の責務:各機関は当該機関の業務に必要最小限の個人情報しか保持してはならず、目的毎に別々に情報を収集しなければならない。また、各機関は情報を保持するシステムを設置する場合にはどこにどのようなカテゴリーの個人情報を記録しているか、管理者は誰か等を公表しなければならない。
  • 各機関の職員は、許可されていない個人情報に不正にアクセスした場合は罰せられる。
  • OMBは各機関の本法の実行について責任を持つ。


3. その他の法律
i. The Telecommunication Act of 1996
通信内容の守秘の保障については、上述のOlmstead裁判などを受けて、「Federal Communications Act of 1934」で既に規定されており、96年の大改正でも当然のことながら受け継がれている。その他に、電話会社は顧客の通話回数や技術仕様など顧客特有の情報を法律によって競争会社に公開しなければならないが、その内容は顧客の要請によって閲覧させなければならないなどの規定を設けている。

ii. The Right to Financial Privacy Act of 1978
銀行の個人の口座記録などの守秘を規定しており、規制当局も裁判所の命令がない限り当該情報に触れることはできない。

iii. The Freedom of Information Act of 1966
いわゆる情報公開法で、連邦機関は基本的には全ての情報を一定のルールの下で公開しなければならないが、国家安全保障に係る情報など9つ設けられている例外規定のうちの一つにプライベート・マターに係ることというのが規定されている。

iiii. The Electronic Communications Privacy Act of 1986
元々は、ウォーターゲート事件で行われたような不法盗聴を防止する法律として、1970年代に制定された法律だが、86年に改正された。基本は不法盗聴の禁止であるが、政府当局のみならず一般市民による無断盗聴も禁止し、対象も音声のみならず、デジタル通信にも拡大している。さらにオペレータによるメッセージ通信の傍受や公開も違法としている。

 この他にも学校の記録、運転免許証の記録、ケーブルテレビ視聴者の記録、ビデオレンタル店の記録など、それぞれのセクターでプライバシー侵害につながらないように守秘義務等を課す法律が制定されている。

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