99年6月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるオンライン・プライバシー問題への取組み -6-


(2)民間自主規制の現状と見通し

[1]オンライン・プライバシー・アライアンスhttp://www.privacyalliance.org

 上述のように、98年6月22日、OPAの結成が発表された。IBM、マイクロソフト、AT&T、AOL、ヤフーなどインターネットの中核となる企業が入っているほか、AEA、ITAA、ITIなどのIT関連の主立った団体など、80以上(発足当初は50以上)がメンバーとして加盟している非営利の団体である。オンライン上での個人プライバシーの保護につき、業界を挙げて推進することを目的とするもので、そのためのガイドラインをまず発表しているが、以下のようにほぼ商務省のガイドラインに沿ったものとなっている。

 さてこのガイドラインでは、まず企業や団体などのウェブ・サイト運営者が各自でプライバシー・ポリシーを策定し、それをウェブ・サイトで明示するとし、少なくとも以下の項目が明示されていることが必要であるとしている。

・ 集められる個人情報の内容
・ その情報の用途
・ その情報を提供する可能性のある第3者
・ 情報の収集、利用、提供に関し個人に与えられる選択肢
・ データの安全性についての保証
・ データの品質の維持や消費者からのアクセスを確保するためのメカニズム
・ もし個人が情報提供を拒否した場合の帰結
・ 情報収集に関する責任体制
・ 情報収集に関するコンタクト先

 ガイドラインは個人への選択肢の付与を重視しており、個人は集められた個人情報が本来の収集の目的外で使われるような場合は、それがどのように使われるのか、どのような第3者へ提供されるのか等を知らされ、同意するかどうか検討する機会が与えられるべきで、最低でもそのような利用を拒否できる機会が与えられなければならないとしている。また、データの安全性については、サイト運営者は、データの紛失、誤使用、改ざんなどに対し適切な措置を取るとともに、情報を第3者に提供する場合は、その第3者にも同様の措置を取らせることが必要である。またデータが、間違っていたり更新が必要だったりした場合にそれらを修正するか又は消費者に直ちにアクセスしてもらって修正できるようなメカニズムを設けるべきで、それは容易かつ、別な人に改ざんなどを許さないような安全なものである必要があるとしている。

 13歳未満の子供のプライバシー保護に関する原則も設けており、これは上に述べた児童プライバシー保護法の内容の基になったものなので省略する。

 6月のガイドラインの発表に続いて、7月にはそれを実際に企業が守るようにさせるためのボランタリー・エンフォースメント・プログラムを発表している。このプログラムは、第3者機関によるガイドラインの遵守状況の監査を中核とするもので、遵守していると認められたウェブ・サイトには、消費者にわかりやすい合格のシールを表示できるというものである。このシール・プログラムは、1. シールをどこにいても受けられ、2. 包括的であり、3. ウェブ・サイト運営者が容易に取得のためのアクセスができ、4. 安価で取得し易く、5. 権威があり、6. シールの供給者(つまり第3者機関)が苦情処理まで行う能力を有している、などを特長として持たせるとしている。監査は、サイト運営者の自己査定も含め、定期的にあるいは抜き打ちでも行い、ガイドラインから外れてしまっている場合には、改善を要求し、一定期間で改善されない場合は、シールを取り消すなど、権威を持たせるものとする。また、消費者からの苦情については、シール供給者が、サイト運営者と消費者に対して、苦情処理メカニズムを提供することとし、まずサイト運営者と消費者の間での問題解決を図らせ、それができない場合はシール供給者がメカニズムに従って解決に当たる。さらに、このシール・プログラムは、サイト運営者と消費者に、オンライン・プライバシーについて啓蒙をすることを含む。そのためには、シール受領サイトの公表や、シールが取り消された場合の公表、定期的監査の結果報告やさらにはガイドラインの遵守を拒むサイト運営者の政府機関への通報なども行うとしている。

 なお、エンフォースメント・プログラム発表の段階では、シール・プログラムもOPAが実施するか、あるいは新たな第3者機関を設置することも考えられていたようであるが、多くのアライアンス・メンバーが既にTRUSTeやBBBOnLineなどにも参加していることから、これらをエンドースしていくと言う立場をその後はとっている。

 OPAはこれら述のガイドライン等を出した後は、専らワシントンでのロビーイング活動や、啓蒙活動などに注力しており、例えば2月のプレスリリースでは、発足以来、17,000人の企業の幹部に、プライバシー・ポリシーを策定、掲示し、またTRUSTeやBBBOnLineのシール・プログラムに参加するよう説いていると発表した。またその段階で、米国民の91%が毎月どこかのOPAメンバー・サイトにアクセスしており、OPAメンバーの模範的なプライバシー・ポリシーの掲示に触れていることになっているとしている。


[2]TRUSTehttp://www.truste.org

 97年6月に設立された非営利の団体で、最初からプライバシー・シールの活動に専念している。99年3月の時点で600以上の企業がシールのライセンシーになっており、米国でのトラフィック量では1/3以上に当たるサイトがライセンシーである。

シール・プログラムは上述のOPAのガイドラインに沿っており、若干の差があった部分についてもOPAの発表に併せて98年6月に改訂している。その後も、10月には児童オンライン・プライバシー保護法の交付に伴い、子供向けサイト用のシール・プログラムを発足させたり、逐次、詳細な改訂を行ったりしている。


[3] BBBOnLinehttp://www.bbbonline.org

 85年の歴史を持つBetter Business Bureausのオンライン部門として97年4月に設立され、BBBが行っているのと同様のReliabilityプログラムをオンラインで行っている。ビジネス・プラクティスが倫理的にも良好で顧客満足度が高いサイトが掲げることのできるBBBOnLine Reliability Sealは発足後2年で3,000サイト以上に与えられている。

 BBBOnLine Privacy Sealプログラムは、OPAの発足のアナウンスメントと同じ6月22日にコンセプトが発表され、11月に受付を開始し、99年3月からプログラムがスタートしている。既に300以上のサイトが申し込んでいる。また、BBBOnLine Kid's Privacy Sealプログラムも同時にスタートしている。シール・プログラムのクライテリアは、ほぼTRUSTeと同様である。


(3)民間自主規制の今後の見通し

 5月12日、FTCがジョージタウン大学に依頼して実施した99年3月時点のウェブサイトのプライバシー保護の状況調査の結果が発表された。概要は以下の通りである。

・ 7,500の人気の高いウェブサイトのうち、無作為に抽出した364の.comサイトについて、92.9%のサイトが何らかの個人識別情報(氏名、eメール・アドレス、住所など)を集めており、また56.9%は統計学的なデータ(性別、嗜好、zipコードなど)を集めており、両方とも集めていたのは56.5%、どちらも集めていなかったサイトは6.6%。

・ 364サイトのうち、239サイト(65.7%)がプライバシー開示(プライバシー・ポリシーの通知又はインフォメーション・プラクティス・ステートメント)のうちの少なくとも一つをサイトに掲示しており、両方とも掲示していたのは36.3%、何も掲示していなかったサイトは34.3%。

 なお、昨年3月時点の調査とは調査方法が違うので単純な比較はできないが、個人情報の用途を示しているサイトが昨年14%であったのが、今回は65.7%だったということになる。

 また、この調査と併せて行われたトップ100ウェブサイトについての調査結果の概要は以下の通り。

・ 100サイトのうち99%が何らかの個人識別情報を集めており、また75%は統計学的なデータを集めており、両方とも集めていたのは74%、どちらも集めていなかったサイトはわずか一つ。

・ 100サイトのうち、94サイト(94%)がプライバシー開示(プライバシー・ポリシーの通知又はインフォメーション・プラクティス・ステートメント)のうちの少なくとも一つをサイトに掲示しており、両方とも掲示していたのは60%、何も掲示していなかったサイトは6%。

 こちらは昨年と比較が可能でありるが、昨年は100サイトのうちプライバシー開示をしていたのは71サイトであった。


これらの調査でわかるように、この1年間で自主規制に相当の進展はあったが、まだプライバシー擁護団体などを満足させられるような進展とは言えない。FTCのピトフスキー委員長も調査に対するステートメントを出しているが、「引き続きビジネス・コミュニティーが、全ての消費者が彼らのプライバシーがインターネット上で守られていると確信が持てるべく、前進を続けるようエンカレッジしたい」と言うことなのだろう。幸いにも、消費者の意識も高まり、TRUSTeによればインターネット・ユーザーの23%がTRUSTeのシールを知っていると言うことであり、シール・プログラムが徐々に消費者にアピールしてきている。IT以外のビジネスにも強いBBBOnLineのシール・プログラムも立ち上がったので、今後、相当な勢いでこれらに参加するところが増えていくと思われる。

←戻る | 続き→



| 駐在員報告INDEXホーム |

コラムに関するご意見・ご感想は hasegawah@jetro.go.jp までお寄せください。

J.I.F.に掲載のテキスト、グラフィック、写真の無断転用を禁じます。すべての著作権はJ.I.F..に帰属します。
Copyright 1998 J.I.F. All Rights Reserved.