99年7月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国における電子商取引の最新動向 「トランズアクショナル」から「リレーショナル」へ -5-


ケース4 インテュイト (Intuit) (情報サービス産業:ウェブサイトを利用したユニークな資産管理サービス)(www.intuit.com)(www.quicken.com,www.turbotax.com

 個人資産管理ソフトウェア最大手のインテュイトは、一時停滞気味だったソフトウェア販売をてこ入れするために「クイッケン・ドット・コム」「ターボタックス・ドット・コム」というオンライン・サービスを97年に開始した。このサイトには納税時や住宅ローンの組み方や各種金利など、個人資産管理に関する数多い情報やノウハウが掲載されており、サービス開始と同時に利用者は急増し、現在、毎月の平均利用者は7,600万にも及んでいる。販促デモとソフトウェアの直販という当初の目的を大きく超え、総合資産管理サイトとして人気を集めており、ユーザーとの関係を重視するリレーショナルECの典型的なサイトになっている。

 サイトで特に人気を集めているのが、各種投資アドバイスで、住宅購入時の注意点、節税のコツ、個人事業者向けなど、盛りだくさんである。また、サイトは各金融機関とリンクしており、ユーザーは請求書の支払いをしたり、住宅ローンに申し込むこともできるようになっている。もちろん、同社の人気ソフトである「クイッケン」(資産管理ソフト)や「ターボタックス」(納税ソフト)などのデモ操作やオンライン購入(直接ダウンロード方式を取っている)も可能である。

 一方、インテュイトは、契約を結んでいる数々の金融機関から広告料や利用手数料を徴収し、収入を確保している。時代のニーズに合わせてオンライン・サービスを提供することで、ソフトウェア販売の売上低下という厳しい状況を打破し、新たな財源を確保している。オンラインで寄せられる顧客の要望に応じてサービス内容を改善することができるため、ウェブを利用したサービスを開始することで、インテュイトの強みであった「顧客のニーズ迅速に対応する」という長所が更に強化されたと言える。

 ただ、最近は金融機関自体が独自でオンライン・サービスを開発するというケースも多く、インテュイトのようなミドルマンの存在自身を疑問視する声も多い。インテュイトはこれに対し、金融機関が真似できない方法で多くの利用者を同社のサイトに集め、金融機関のオンライン・サービスに十分対抗し得ると豪語している。ただ、これまでインテュイトの顧客、財源の一つであった金融機関が、今後はライバルとなることは確かであり、両者の勢力関係がミドルマンとしてのインテュイトの将来を決定することだけは間違いない。


ケース5 MP3ドットコム (MP3.com)(音楽ダウンロードサイト:流通業)(www.mp3.com

MP3ドットコムはインターネット上で音楽を配信し、ダウンロードする際に有料で販売するインターネット音楽販売サイトとして注目されている。MP3は音楽のデータを圧縮する方式で、音楽CDの1曲分のデータ 約50MB を 約1/10の 5MB にするほか、音質はCD並みを保つという特徴を持っている。パソコン上でMP3のデータを再生する場合、WinAMPというソフトウエアが使われている。しかし、MP3が注目され始めたのは、昨年、発売されたポータブルMP3プレーヤーの登場からであり、現在のCDの牙城を切り崩し、音楽はインターネットでダウンロードする時代になるという期待が高まっている。今のところ、アメリカでは2機種のMP3プレーヤー、ダイヤモンド・マルチメディアのRio PMP300と、韓国のセハン情報システムズが作ってアメリカではEiger Labsが販売しているMPMan F-10、がシェアを争っている。

 サイトでは「オルタナティブ」「子供向け」「クラシック」「カントリー」「イージーリスニング」「ポップス、ロック」などのジャンル別メニューのほか、アーチスト別のメニューがあり、ユーザーはここから自分の聞きたい曲を選択することになっている。

 MP3ドットコムのサイトで特徴的なのは、関連ソフトやハードの紹介、関連ニュースなど、MP3を初めて利用するユーザーにも分かり易い工夫が盛り込まれている点であり、リレーショナルEC的であると言える。特に、「MP3 for Beginners」というコーナーでは、音声と伴にMP3の機能を説明するなど、新しいコンセプトをユーザーに理解してもらい、リピーターを増やすことに重点を置いている。今のところ、サイトに掲載されているのは、セミプロ的なアーチストが多く、新人の登竜門的な役割をしていく可能性が高いと業界では見られている。ジュピター・コミュニケーションズのアナリストも「インターネットは無名のバンドが自分たちの存在を印象付けるのに適した手段である」と述べている。

 MP3ドットコムのCEO、マイケル・ロバートソン氏は「MP3ドットコムは、ちょうどレコードからCDへの変遷と同じくらい、音楽業界そのものを変化させるはず。80年代にMTVの登場で音楽ビデオが新人アーチストの販売プロモーションの中心になったように、これからはMP3ドットコムがその役割を果していくだろう。そのためにもサイトを分かり易くして、リピーターを増やさなくてはならない」と話している。

 音楽業界のロビイストグループである全米レコード産業協会(RIAA)は、昨年10月、MP3が海賊版の温床になる可能性が高いとして、ポータブルMP3プレーヤーの製造元、ダイヤモンド・マルチメディアに販売差し止めを求めた訴訟を行うなど、今後、知的所有権を巡る更なる訴訟も考えられている(ダイヤモンド・マルチメディアに対する訴えは却下されているが、RIAAは上訴するとみられている)。一方で、訴訟報道で注目されたため、逆にMP3ドットコムのユーザーが増えていると言われており、今後が注目されている。


ケース6 ナショナル・マテリアル・エクスチェンジ・ネットワーク (National Materials Exchange Network=NMEN) (エネルギー産業:サイトを利用した広域リサイクルのビジネス化)(www.rECycle.net

 ナショナル・マテリアル・エクスチェンジ・ネットワーク(NMEN)はインターネットのウェブサイトを通じたネットワークで、産業廃棄物を回収し、リサイクルすることを目的として構築されている。製造業、電気・ガス、石油化学産業など3000以上の企業と契約を結び、各社が排出する産業廃棄物を買い上げたり、無料で引き取ったりして、リサイクルしている。これまで廃棄物の再利用は地域的なつながりや事業者の個人的なネットワークなどで行われてきたが、これをインターネット化することでビジネスとして確立させるのが目的である。インターネットを通じて、これまで疎遠だった事業者同士が出会い、顔が見えるサイトを形成している点で、ユニークであると言える。

 NMENは42の地域部門を持ち、廃棄物を32のカテゴリーに分類している。従って、廃棄物を出す側の企業と、資源を再利用したい企業を引き合わせることが容易にできるようになっている。NMENはこのネットワークの活用により、米国産業界全体にとって年間平均2,700万ドルのコスト削減、10万バレル分の石油節約を実現していると報告されている。

 NMENの親会社であるパシフィック・マテリアル・エクスチェンジ(Pacific Materials Exchange)は民間の非営利組織であり、政府との契約や助成金、一般からの資金援助などに収入源を頼っている。PMEがNMENを創設した当初の理由は、産業廃棄物を排出する企業とリサイクル資源を確保したい企業の両方が閲覧できる電子掲示板を設けるサービスを提供しようというものであった。モデムを使ったダイアルアップで、最新情報やリサイクル資源の価格、連絡先などを集めたデータベースに24時間アクセスできるサービスが開始された。また、希望する資材の情報を登録しておけば、それが入手可能になった時点で自動的に連絡を受けられるというサービスも行っていた。このように、共通の興味を持つと同時に利害関係が合致する参加者をNMENのコミュニティ内に引き合わせることにより、最終的には環境保護に大きな貢献をしてきたわけである。このサービスは好評で、後にインターネット上でのサービスが提供されるようになった。

 NMENは95年にビジネス部門でNII賞を受賞し、特にインターネットの活用が環境保護に貢献したというユニークな点が取り上げられ、ゴア副大統領からの絶賛を受けた。それまでは、非営利団体なりの方法で運営資金を捻出していたが、その頃からNMEN自体が財政的に自立したネットワークに成長するように、利用者からアクセス料を徴収する計画が検討され始めた。それ以降NMENは国際的にネットワークを広げ、多くの支援を受けることに成功した。現在、リサイクルネットと呼ばれる世界的ネットワークの一部となっており、昔と変わらぬ無料サービスが世界各国で好評となっている。コンテンツの拡充を推進することで、利用料の徴収をすることなく環境保護に貢献した成功例である。


おわりに

 以上のように、現在の米国のECは、@顧客満足度(CS)を高める関係構築に焦点を置くこと、A複数のトレーディングパートナーとの提携等でカスタマーへ価値の高い製品・サービスの提供を目指すこと、BECプログラムを企業内の他の活動(広範囲なビジネス戦略、マーケティング戦略)と統合すること、の3つのポイントを実践して成功を収めてきている。成功しているところを見るとなるほどなと思うのだが、これらの企業は全て自らそれぞれのビジネスモデルを開拓してきたと言うところにすごさがある。

 開拓者たちが先行し、強い競争力を持っているのは当然であるが、後続の者にとってもECシステムの様々なお手本を見ることができるという利点もある。経営環境が好転してからと言うのでは遅すぎる。情報システム部門にお任せと言うのではなく、ぜひ経営者自らがどのようなモデルを選択・構築していくのか判断し、判断の後は一気呵成に攻めてもらいたいものである。

 それにしても、米国のEC推進にかける官民一体のパワーにはすさまじいものがあると思います。

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