2002年6月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるバイオ・インフォマティックスの動向」


3.           バイオIT市場におけるITベンダー

(1)          バイオIT市場における主要ITベンダーのポジショニング

バイオ・インフォマティックスを含むバイオIT市場全体における主要プレイヤーとしては、IBMCompaqSun MicrosystemsHPEMCOracleなどが挙げられるであろう。

調査会社IDChttp://www.idc.com/)による、主要ITベンダーのバイオIT市場におけるポジショニングの分析によれば、ITベンダーのポジショニングは、提供ソリューションの範囲(scope)と、クライアント企業の組織および業務内容の複雑性に対するサポート力(Support of organizational complexity)で見ることができるという。

図表12は、IDCによる主要ITベンダーのポジショニングを示したものである。

 



図表12 バイオIT市場における主要プレイヤー

(出展: IDC

 

図表12からわかるように、IBMCompaqSunHPは提供ソリューションが幅広く、クライアント企業の組織および業務内容の複雑性に対するサポート力も高い。たとえば、さまざまな研究部門を有する大企業に、ハードウェア、アプリケーション、コンサルティング、サポートといったさまざまなソリューションを提供できる。

データベース提供会社であるOracleやコンピュータ・メーカーのDell、スーパーコンピュータを提供するSGI、ストレージ・システム業界のリーダーであるEMCなどは、提供ソリューションの範囲はあまり広くなく、クライアント企業の組織および業務内容の複雑性に対するサポート力は中程度である。

提供ソリューションの範囲が狭く、かつクライアント企業の組織および業務内容の複雑性に対するサポート力も低いのは、ネットワーク・ストレージ・システムやコンテンツ配信をビジネスとする Network Appliance, Inc.(http://www.netapp.com/)、ライフサイエンス分野の研究サポート・インフラを提供するBlackStoneComputing(http://blackstonecomputing.com/)、データ・ストレージ機器メーカーのStorage Technology CorporationStorageTek(http://www.stortek.com/)、コンピューティング・ソリューションを提供するPlatform Computing Inc.( http://www.platform.com/)などである。

ITベンダー以外では、大手コンサルティング会社のPricewaterhouseCoopersAccentureCap Gemini Ernst & Youngも、バイオIT市場におけるソリューション提供者としてビジネスを展開している。

 

(2)          主要ベンダーの強み・弱み

図表13は、主要ITベンダーの強み・弱みを分析したものである。

例えばIBMの強みは、高性能コンピュータを含むさまざまなコンピュータの提供、研究インフラの構築、提供ソリューションのスケールの大きさなどで、バイオ・インフォマティックス市場の優位なポジションに位置しているが、IBM製品中心の販売方針や価格帯が高いことなどがマイナス点となることがある。

CompaqIBM同様、高性能コンピュータを含む幅広い製品ポートフォリオをもち、早い時期にバイオ・インフォマティックス分野に進出して成功を収めてきた。Compaqは、20022月に発表されたIDCの『2001年度 技術システムおよびサーバーに関するレビュー・レポート(Technical Systems and Servers 2001 Year in Review Report)』で、マーケットシェア22.8%、売上11.5億ドルを達成し、ハイパフォーマンス・サーバーの売上において2年連続でコンピュータ業界トップの業績を上げた。

http://www.compaq.com/newsroom/pr/2002/pr2002030402.html

このことからも、AlhaServerを柱とした高性能コンピューティング分野で優位を保っていることがわかる。しかし、2001625日に、ハイエンド・サーバー用チップ「Alph」の生産事業から完全撤退を発表し、Alphaサーバーにインテルのチップ「Itanium」を使うことを決定したこと、HPとの合併話で今後の行方が不透明なことなどが弱みとなっている。

SunのバイオIT市場における強みは、シングル・アーキテクチャ・アプローチ、ソフトウェア、拡張性の高いストレージ・システム、JavaXMLに豊富な経験を持っていることなどが挙げられる。また、データベースのリーディング企業であるOracleとの強い関係も、Sunの強みを支えている。Sunは、ライフサイエンス分野での高性能コンピュータ(HPC)市場全体60億ドルのうちの約20%、つまり12億ドル相当をSunHPCが占めることを目標としている。

図表13 バイオIT市場における主要ITベンダーの強み・弱み

 

強み

弱み

IBM

·  高性能コンピュータを含む幅広いポートフォリオ

·  研究インフラ構築

·  スケール

·  特定専門領域への特化

·  チャネルとエコシステム開発

·  IBM製品中心

·  価格が高く、利用がむずかしい

·  DB2問題

 

 

Compaq

·  早期の市場進出と成功

·  高性能コンピュータを含む幅広いポートフォリオ

·  特定専門領域への特化

·  エコシステム開発

·  ハイエンド・サーバー用チップ「Alph」の生産事業から完全撤退

·  HPとの合併問題

·  チャネル開発

 

Sun

·  サーバー・システム

·  オープンソース、標準団体に焦点

·  学術・バイオテクノロジー分野に強い

·  Oracleとのパートナーシップ

·  システム・ベンダー

·  ストレージ

·  スケール

 

EMC

·  企業向けストレージ・システム

·  技術と組織の複雑さに対応

·  特定専門領域の専門知識

·  エコシステム開発

·  チャネル開発

·  ローエンドとミッドレンジの製品提供

·  提携強化

 

Oracle

·  企業向けデータベース

·  商品の普及率

·  特定専門領域の専門知識増加

·  製品機能とパフォーマンス

·  製品導入および利用がむずかしい

·  価格構造

 

 

HP

·  高性能コンピュータに強い

·  製品の幅広さ

·  特定領域における専門知識

·  エコシステムとチャネル開発

·  製造および製薬メーカーに強い

·  投資とコミットメント

·  提携をてこにしたビジネス展開を活用していない

·  市場での限られたプレゼンスとブランド認知

 

Dell

·  クラスタ・サプライヤーとしての市場への浸透

·  値段とパフォーマンス

·  簡単な操作とアクセスの容易性

 

 

·  特定専門領域への特化なし

·  スケール

·  提供製品ポートフォリオの幅広さ

·  オープンソース・標準化団体における限られたプレゼンス

SGI

·  化学と可視化(visualization)分野で先行

·  特定領域における専門知識

·  高性能コンピュータ・ポートフォリオで強み

·  可視化ハードウェアとビジュアル・サービング戦略

·  スケールおよびニッチ・プロバイダとしての力量

·  エコシステムとチャネル開発

· ストレージ戦略

(出展: IDCその他の資料をもとにワシントン・コア作成)


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