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2002年6月 JEITA ニューヨーク駐在・・・荒田 良平
「米国におけるバイオ・インフォマティックスの動向」 |
4.
主要ITベンダーの動向 4.1.
IBM (1)
取組体制・戦略 ライフサイエンス分野の組織強化 IBMは2000年に入って、バイオIT市場をターゲットとしたライフサイエンス分野の組織体制を強化した。2000年8月、バイオテクノロジー、医薬研究、ゲノミクス、プロテオミクス、ヘルスケアなどの分野の研究者たちの研究開発活動を支えるITインフラを提供することを目的として、ライフサイエンス・ソリューション事業部門を立ち上げた。ライフサイエンス部門をバックアップするリサーチ・センターとして、IBM Computational Biology CenterとIBM Deep Computing Instituteがある。さらに2001年3月には、新たなコンサルティング・グループとして「グローバル・ライフサイエンス・コンサルティング&ソリューション」を設置し、クライアント企業やビジネス・パートナーがより効率的に研究開発を進めていくためのサポート体制を作った。 図表14 IBMライフサイエンス・ソリューション事業部 ![]() (出展: IBMの資料をもとにワシントン・コア作成) ビジネス・パートナーとの連携によるソリューション提供 IBMのハードウェアおよびインフラストラクチャと、パートナー企業が提供するアプリケーション、研究開発ツールを統合し、クライアント企業のR&D生産性向上、R&Dプロセス効率化、市場競争力強化、将来性に対する柔軟性、科学的発見のためのコスト低下を目指すソリューション・サービスをクライアント企業に提供していくことが、IBMにおけるライフサイエンス・ビジネスの戦略である(図表15)。 図表15 ライフサイエンス分野におけるIBMの戦略 ![]() (出展: IBM) 2000年8月にライフサイエンス・ソリューション部門を設置した際、バイオテクノロジーや製薬メーカーなどとの提携を進めるための総額1億ドルの投資を決定したが、このシードマネー1億ドルのうちの約半分は、すでにカナダのMDS Proteomics、ベルギーのDevgen、アメリカのStructural Bioinformaticsを含む、バイオテクノロジーおよびバイオ・インフォマティックス関連6社の直接投資に充てられている。 IBMは、「バイオテクノロジーは高性能コンピューティングのけん引役であり、IBMはライフサイエンス分野に参入している他のどのIT企業よりもこのバイオIT分野に投資している」としており、2001年11月には「IBMは直接投資から、Burrell & CoやOxford Bioscienceのような、ライフサイエンス分野に特化したベンチャーキャピタルファンドを通じての投資に移りつつある」と述べている。 提供ソリューション IBMは、ライフサイエンス分野において、@データ管理およびナレッジ・マネジメント、A研究開発を支える高性能の情報インフラ(ハードウェアおよびソフトウェア)、Bコンサルティングを含む支援サービス、CEビジネスなどのサービスを必要に応じて統合的なソリューションとして提供することを目指している。図表16は、IBMが提供するソリューションのイメージ図である。 図表16 IBMが提供するライフサイエンス・ソリューション ![]() (出展: IBM) (2)
主な事業活動 たんぱく質構造情報データベース構築 2000年11月29日、IBMは三次元たんぱく質モデリングなどのComputational proteomicsにおける世界のリーディング企業であるStructural Bioinformatics, Inc(SBI)(http://www.strubix.com/)に資本投資することを発表した。SBIへの投資は、2000年8月にライフサイエンス・ソリューション部門設置以来の最初の投資となった。従来、一つの新薬を開発するために5億ドルのコストと15年の歳月を必要としたが、IBMとSBIのコラボレーションにより、その費用やサイクルタイムを短縮していくことを目的とする。そのコラボレーションの一つとして、世界中の研究者がインターネットを通じてたんぱく質構造情報データベースにアクセスできる仕組みの構築・提供がある。 ゲノム解析用のスーパーコンピュータ開発 2000年12月、IBMはNuTec Science(http://www.nutecsciences.com/)と、ゲノム解析用の世界最大規模の商用スーパーコンピュータを構築することを発表した。NuTecはヒトゲノム・プロジェクトに関わるコンピュータ作業を迅速化するためのアルゴリズム研究を専門としており、同社が設計したソフトを使えばゲノム解析の時間は大幅に短縮される。IBMは1秒間に7兆5000億回の演算が行えるスーパーコンピュータ・クラスタの構築を目指しており、このスーパーコンピュータとNuTecのソフトウェアを組み合わせることで、ゲノム研究に不可欠なパワフルなコンピューティング環境を提供できることになる。 たんぱく質分析用の研究データベース構築 2001年1月30日、IBMはたんぱく質を研究するプロテオミクスのリーディング企業であるMDS Proteomics(http://www.mdsproteomics.com/)との戦略的提携を発表した。IBMとMDS Proteomicsは、共同で製薬メーカーや大学機関の研究者がインターネットを通じてアクセスできる、たんぱく質分析用の研究データベースを構築する。また、バイオテクノロジーの研究における複雑で大量計算が必要とされる課題の解決のためのプロジェクトも共同で行っていくという。この提携では、IBMはMDS Proteomicsに資本を投入することとなる。 データベースの統合利用促進 2001年11月28日、IBMはドイツのハイデルベルグに本拠をおくLION Bioscience AG (http://www.lionbioscience.com/)と新薬の開発促進を目指して提携することを発表した。LIONはバイオ・インフォマティックスのスペシャリストであり、この提携によりLIONはバイオ・インフォマティックスのコンサルティングに焦点をあて、IBMはITシステム提供を行うという。両社は、これにより主要製薬メーカーや研究機関がヒトゲノムの解読からのデータをもっと簡単で便利に抽出できるようになることを目指している。これにより、IBMのDiscoveryLinkでLIONのSRSプラットフォームを提供することで、1回の照会でGenBankやSwissProtなどを含む450以上の公共および民間のデータベースから同時に必要な情報を探すことができるようになる。
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