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2002年6月 JEITA ニューヨーク駐在・・・荒田 良平
「米国におけるバイオ・インフォマティックスの動向」 |
4.2.
Compaq Computer (1)
取組体制・戦略 Compaqでは、ハイパフォーマンス・テクニカル・コンピューティング(HPTC)グループ内でライフサイエンス分野のビジネス展開を行っている。 図表17 コンパック・ソリューション・グループ ![]() (出展: コンパックの資料をもとにワシントン・コア作成) Celera Genomicsのシステム構築による市場への早期参入 Compaqは1999年、ゲノム情報提供のトップ企業であるCelera Genomics (http://www.celera.com/)のシステムを構築した。CeleraがCompaqのシステムを活用して、設立わずか2年後にヒトゲノム情報を解読したことで、Compaqのライフサイエンス分野におけるプレゼンスが早々に確立された。 その後Compaqは、バイオ・ベンチャー企業のスタートアップ時に直接あるいは間接に投資することで、バイオ・インフォマティックスを含むライフサイエンス分野でのCompaqのプレゼンスを高める長期戦略をとった。2000年9月26日、同社は、ゲノミクスやバイオ・インフォマティックスのベンチャー企業を対象とした1億ドルの投資プログラムを創設することを発表した。ベンチャー企業への直接投資とベンチャーキャピタルを通じた投資とともに、研究用インフラストラクチャとしてCompaqのAlphaServerシステムやStorageWorksシステム、研究開発ソリューションや支援サービスのベンチャー企業への提供も含まれた。これにより、有望なライフサイエンス・ベンチャー企業の早期立ち上がりの支援を行うことでライフサイエンスの発展に寄与し、ゲノミクスやバイオ・インフォマティックス分野におけるCompaqのシステムの有益性を示し、結果的にAlphaSeverやStorageWorksシステムの需要が伸びることを期待するものであった。 提供ソリューション ライフサイエンス分野における提供ソリューションは、Alphaサーバー・ファミリーを中心とする高性能コンピュータ・システムと、SAN(storage area netowrk)であるStorageWorksシステムを中心に、クライアント企業が必要とするアプリケーションを組み合わせるというものである。Compaqは、ライフサイエンス分野におけるアプリケーション・デベロッパーとして、図表18のような企業と戦略的関係を結んでいる。 図表18 Compaqと戦略的関係を結ぶデベロッパー
(注)LIMS:Laboratory
Information Management Systemの略(検査室情報管理システム) グリッド技術:個人情報端末やパソコン、高性能コンピュータ、大容量データセンター、可視化装置、観測装置等をインターネットをベースとしたネットワークによって結び、これらのシステムを統合してあたかも1つの巨大な仮想コンピュータのように扱う、分散型コンピュータ構築技術。 (出展: Compaq) 「バイオ・ファクトリー」をめざすCelera
Genomicsとのコラボレーション Compaqは1999年末、ゲノム情報提供のトップ企業であるCelera Genomicsのゲノム研究として、Compaqのスーパーコンピュータ、ストレージ・システムなどを含むデータセンターを設計・構築し、Celera Genomicsのゲノム解読完了に貢献した。その時点でCelera Genomicsに設置されたシステムは、毎秒1兆3000億回の浮動小数点演算が可能なCompaq 64ビットAlpha プロセッサなど700CPU、70TBのデータベースを管理するCompaq StorageWorks システムなどであったが、その後、100TBのデータベースを管理できる、900以上の相互接続されたAlphaプロセッサとStorage Worksシステムなどに増強されている。 新薬発見・開発のバーチャル・ラボ環境の構築 2001年8月15日、CompaqとEntelos(http://www.entelos.com/)は3年間のIT契約を締結したことを発表した。Entelosは米カリフォルニア州メンロパークに本拠をおく、新薬の発見・開発のためのコンピュータ内での予測バイオ・シミュレーションを行うリーディング企業である。同社は複雑な慢性疾患の大規模な数学モデルを開発しており、実験室や臨床では数か月あるいは数年もかかる可能性のある実験を、仮想の患者・ターゲット・治療薬を使ってコンピュータで実験シミュレーションするサービスを提供している。この契約でEntelosはTru64 UNIX が稼動するCompaq AlphaServer システムと、Linux が稼動する Compaq ProLiant サーバーを導入し、新薬発見と開発プロセスを統合する新しいバーチャル・ラボ環境を構築する。Compaqは演算およびストレージ・プラットフォームとソリューションを提供することで、Entelosのコンピューティング機能強化を支援する。また、両社はジョイント・マーケティング活動も展開し、共同でカスタマー・サポートも行うという。 たんぱく質解析用の次世代スーパーコンピュータ開発 2002年1月29日、Compaqは米エネルギー省のSandia国立研究所と米Celera Genomicsと提携し、遺伝子やたんぱく質の全機能解明に向け、十分な処理能力を有するスーパーコンピュータの共同開発を行うことを発表した。この提携で、Compaqとサンディアはシステム・ハードウェアとソフトウェアに関する共同作業、CeleraとSandia国立研究所はバイオロジー研究のための先進アルゴリズムと高スループットの機器からの膨大な実験データを解析するための新しい可視化技術の創出を行うとともに、Compaq、Sandia国立研究所、Celeraの三者でシステム・ハードウェア、ソフトウェアのインテグレーションおよびパフォーマンスの最適化の作業を行うという。Compaqは毎秒100兆回の演算処理能力を持つスーパーコンピュータを製作することを目標としており、これが達成できると現在の世界最速マシンの約30倍の速度で演算処理可能なスーパーコンピュータとなる。2004年までプロトタイプを完成させ、2010年には毎秒1,000兆回のレベルまで到達させたいとしている。 おわりに バイオ・インフォマティックスは、バイオテクノロジーとITの融合(バイオテクノロジーへのITの適用)が成功した例である。そして、その発展の過程を見ると、多くの示唆を含んでいる。 特に米国のバイオ・インフォマティックスを支えている医薬品業界やバイオ・ベンチャー、連邦政府のR&Dなどを見ると、日米の違いに愕然とせざるを得ない。バイオ・インフォマティックスの成功は、単にバイオとITがうまく出会ったというにとどまらず、医薬品業界の合従連衡と積極的な投資、創造的なベンチャーを生む土壌や制度、そこに資金を供給する資本市場、異分野の研究者間の交流や研究者の流動性、そしてそれらを根底で支える膨大な政府支出といった諸要因が重なり合って実現したものである。第一ステージで完敗したと言われる日本が巻き返すのは容易なことではない。 去る2002年3月12日から14日にかけて、ボストンで“Bio IT World Conference & Expo”というイベントが開催されたので、のぞいてみた。(http://www.bioitworldexpo.com/)(次回は11月12〜14日にSan Diegoで開催されるようです。) 第1回目ということだったが、100社を超える展示があり、3,000人を超える参加者があったということで、なかなかの盛況であった。 参加した印象としては、参加者もIT業界、医薬品業界、バイオ・ベンチャー、大学の研究者、ベンチャー・キャピタリスト、マスコミなど様々で、セミナー自体も技術的な内容のものからビジネス・モデルまで様々であり、総花的という感が否めなかったが、第1回目ということでもあるし、そもそもそれがバイオITなるものの特徴なのであろう。 様々なプレゼンテーションを聞いていて強く感じたのは、「コラボレーション」と「ナレッジ・マネジメント」がこの業界にとって非常に重要なキーワードであるということである。ますます巨大化するデータや知識をマネージしスピードを重視した研究・製品開発を行わなければ生き残れない環境下にあって、時として企業や大学といった組織を超えて研究者間、技術者間でITを活用した「コラボレーション」と「ナレッジ・マネジメント」が必要になってきている。バイオとITが融合したこの業界では、ITによる組織革命も早く進展しそうである。 (了)
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