2003年3月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国のIT関連R&D政策の動向」


図表7 「NSF Reauthorization Act」によるNSFの予算認可(authorization)額

(単位: 百万ドル)

 

FY2003

要求

FY2003

認可

FY2004

認可

FY2005

認可

FY2006

認可

FY2007

認可

研究・関連活動

3,783.21

4,155.69

4,799.82

5,543.79

IT

678.00

704.00

774.00

Nanotechnology

221.25

301.00

350.00

教育・人材

908.08

1,006.25

1,157.19

1,330.77

主要研究設備・施設

126.28

172.05

211.18

258.88

その他

218.22

202.40

222.64

244.95

合計

5,035.79

5,536.39

6,390.83

7,378.34

8,519.78

9,839.26

(出展: NSFのホームページから作成)

こうした中で、2003年度の国防関連R&D予算については、国際情勢の緊迫や2002年秋の中間選挙における共和党の勝利を受けて、2003年度要求額に比べても一層の大幅増強が承認されている。

4.             2003年度予算におけるIT関連のトピックス 〜サイバー・セキュリティ研究開発法

ブッシュ大統領は20021127日、コンピュータ及びネットワーク・セキュリティに関する研究開発の促進と人材育成を目的とする「Cyber Security Research and Development Act(サイバー・セキュリティ研究開発法)」に署名し、同法が成立した。

下院科学委員会のホームページに掲載されているサイバー・セキュリティ研究開発法案(H.R.3394)の要旨(http://www.house.gov/science/hot/homeland/cybersum.htm)によると、同法案の背景となっている現状の問題点と同法案による解決策は以下の通りである。

【問題点】

米国は、水道、電力など日常生活における多くの重要な局面でコンピュータ・システムやネットワークに依存するようになっており、テロリストからのサイバー攻撃に非常に傷つきやすくなっている。

現在得られる技術ではコンピュータ・システムやネットワークを十分に防護できず、その防護のための新しい方策を開発するための研究開発も比較的少ない。

なぜなら、

  • 民間部門は、市場がスピードと便利さだけを重視するので、サイバー・セキュリティに投資するインセンティブが小さい。
  • 連邦政府はそのギャップを埋めていないばかりか、慢性的にサイバー・セキュリティへの投資が足りない。(連邦政府全体で年間約6,000万ドルをサイバー・セキュリティに費やしている。)
  • これは一つには、国家としての強力なサイバー・セキュリティ研究遂行に責任を持つ省庁が無いからである。
  • その結果、サイバー・セキュリティ研究が不足しており、サイバー・セキュリティへの基本的対応が長い間変わっていない。また、
  • 比較的資金が少なく、研究者も少なく、最小限の注目しか集まらない分野であるため、サイバー・セキュリティに関心を持つ学生も少なく、問題を恒常化させている。

【解決策】

これらの課題に対応するため、NSFNIST2003年度予算においてその有効性について言及された2省庁)に新しい研究・教育プログラムを創設する。このプログラムの目的は、サイバー・セキュリティのより革新的な研究を促進するとともに、この分野により上級の研究者や学生を惹き付けることである。米国が民間及び政府のコンピュータへのテロリストからの攻撃を予防しまたそれと戦うため、本法は以下の新しいプログラムに5年間で9300万ドルを認可(authorize)する。特に、

NSF

NSFは、以下のことを実現するための強力なプログラムを(外部からのレビューを通じて)創設する。

  • 大学が単独で、又は他大学や産業界や政府の研究所と協力して、複数の学術領域にまたがる「コンピュータ及びネットワーク・セキュリティ研究センター」を設立すること。
  • 大学が、サイバー・セキュリティに関する学士及び修士プログラムを創設・改善すること。
  • 博士課程の学生がコンピュータ及びネットワーク・セキュリティで学位を取得するための研究奨学金を受け、また産業界とともに働くこと。

NIST

NISTは、以下のことを実現するための強力なプログラムを(外部からのレビューを通じて)創設する。

  • 産学連携によって産業界の関心に応えるための研究センターを設立すること。
  • 関連分野の上級研究者がサイバー・セキュリティに関する研究を行うこと。
  • ポスドクがサイバー・セキュリティに関する研究の機会を利用すること。

また、同法の概要と20032007年度の予算認可(authorization)額(実際の予算額は毎年度の予算承認(appropriation)によって決定される)は、以下の通りである。

  • コンピュータ・システムのセキュリティ研究のためのポスドク及び上級研究者への研究奨学金(27,500万ドル)(図表8のF)
  • 暗号技術、プライバシー、ワイヤレス・セキュリティや、知的財産権の侵害を含むサイバー犯罪の検知、捜査、起訴等の法執行能力の強化など、セキュリティ関連9分野の研究グラント(23,300万ドル)(同@)
  • コンピュータ及びネットワーク・セキュリティの研究者や専門家の数の増加と質の向上を図るための「コンピュータ及びネットワーク・セキュリティ研究センター」の設立(14,400万ドル)(同A)
  • コンピュータ及びネットワーク・セキュリティに関する学士及び修士プログラムを創設・改善するための大学へのグラント(9,500万ドル)(同B)
  • コンピュータ及びネットワーク・セキュリティ研究を行う大学院生のための実習プログラムの創設(9,000万ドル)(同D)
  • ネットワーク・セキュリティの改善のための研究、及びコンピュータ・システムのセキュリティの改善方法に関する複数の学術領域にまたがる長期的ハイリスク研究(3,200万ドル)(同H)
  • 大学院生にサイバー・セキュリティで学位を取らせることによって学術的キャリアを追求することを奨励するための実習プログラム(2,500万ドル)(同E)
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