2003年4月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国のIT企業の対中国観」


3. 中国本土における香港と台湾の成功

質問 (3): 香港や台湾の企業が中国本土でも成功できると考えるか。

香港も大中華圏の一部ではあるが、本報告書作成のためにインタビューを受けた回答者の大半は、中国国内のハイテク産業においては、台湾の方が大きな役割を果たす可能性が高い、と述べた 。また、中国のWTO加盟によって、台湾も中国に劣らないほどの恩恵を得る可能性があるという 。回答者全員が、台湾は単に工場や資本を中国本土に移転しているだけでなく、台湾企業は大国であり協力的な隣国である中国に専門技術を成功裡に移転している、と述べた。中国が他の諸国との新たな関係に入った結果、関税が下がり、貿易・投資政策が緩和され、台湾のハイテク企業にとっては、中国本土への事業移転によって直ちに実現される利点が増えた 。多くの米国ハイテク企業が、ハイテク設計や契約生産で台湾に依存しているため、台湾・中国間の新たな関係は多大な関心の対象となっている。

台湾のハイテク企業の中国移転は、新しい傾向ではない。台湾企業は、製造コスト削減と最新式工場の建設スペース確保の機会を求めて、1990年代に中国へ移転を始めた。 マッキンゼー・アンド・カンパニーのアナリストらによると、台湾企業による投資は「上げ潮」である。同社の予測では、2001年から2006年までに、台湾のエレクトロニクス企業の台湾国内における設備投資は、複利年率13%で減少する。逆に、これらの企業の中国国内における設備投資は、複利年率32%で増加するとされている 。

この根本的な変化と、中国のWTO加盟がもたらした関税引き下げとによって、大中華圏の流通経路およびサプライチェーンの効率性向上への投資が実現する可能性が高い 。こうした効率性向上によって達成されるコスト削減は、米国のハイテク企業に移行され、米国企業は、最もコスト効率の高いハイテク供給者として台湾に、そしていずれは中国に注目するようになる。

台湾は長年にわたり対中投資に注目してきたが、政府の厳しい規制が両者の関係を制限していた 。台湾と中国が共にWTO加盟国となった今、両者共にWTOの規則を順守しなければならず、対外投資に関するこうした政府の規制は撤廃されなければならない。その結果、台湾企業とその設計・工学の専門技術の中国本土移転が促進される。

このような台湾の能力の流入を中国企業は歓迎するはずである。アジア・パシフィック・ベンチャーズ社のブライアン・バーンズ副社長が述べるように、「台湾が10年前に成功を収めた分野が、今中国の得意分野となっている。」台湾企業が中国本土へ移転する場合、企業幹部も共に移る場合が多いため、中国を強力な製造・設計の勢力に育てる過程は、台湾での成功を反復することになる 。


4. 中国での事業経営

質問 (4): 貴社は、中国での事業経営において、他のアジア諸国での場合に比べて、多くの困難に直面していると思うか。また中国で直面している困難の中で、貴社の属する産業に独自のものは何か。

中国と他のアジア諸国との相違または中国独特の難題

他のアジア諸国と異なり、中国はまだ外国との関わり方を模索している段階にある。また、他のアジア諸国は、基本的には自国の得意分野を考慮した行動をとっているが、中国はまだ、自国の得意分野が何であるか、また複数の行動の選択肢があるのかどうかを判断しようとしている段階にある 。一例を挙げると、中国は低コストの製造業労働力を持つが、中国の優位性は製造業だけにとどまらない。中国本土にとどまる技術者・科学者、あるいは国外から帰国する技術者・科学者が増えているため、中国の競争力は設計・革新の分野にも及びつつある。

中国がまだ十分に自国の力を発揮できていない背景には、2つの要因がある。まず、政府指導層の交代によって競争市場への参入が遅れていること、2番目に中国実業界の指導者の間で、中国をどのように位置付けるべきかについてさまざまな野心が衝突していることである 。前者は、既存の資源を活用するための組織を構築するには時間がかかることを示している。しかしながら、中国が共産党に支配されてはいるが、歴史的には資本主義的な性質の国であることが、こうしたプロセスの加速に役立つと思われる 。

後者の要因は、実業界の有力な指導者らがコンセンサスに到達しなければならないこと、または中国は複数の得意分野で競争力を発揮する可能性があることを示している。この2つの選択肢の中では後者の方が可能性が高いと思われる。中国の最も価値ある資源が何であるかについて対立する意見を持つさまざまな指導者が同意に達するとは考えにくいからである 。

中国と他のアジア諸国の発展段階が異なることに加え、政府と民間部門との関わり方の相違も、米国テクノロジー企業の可能性に影響を及ぼす。他のアジア諸国が、税制や関税を通じて国内企業を保護しているのに対し、最近WTOに加盟したばかりの中国には、まだ明確かつ広範な制度がない 。中国政府は自国企業を保護しているが、その手段は主として政府補助金や法案である。WTO加盟によって、中国は国内企業に関してより厳しい規制の導入を要求される。これは、米国のテクノロジー企業にとっては、より明確な可能性につながるはずである。また、中国は他のほとんどの諸国に比べて技術開発が遅れているため、中国政府は外国企業を歓迎することによって自国が大きく前進できることを認識している 。


特定産業における中国の発展を巡る具体的な課題

低コストの労働力をほぼ無尽蔵に備え、人口は増加を続け、国民は新しい技術を受け入れると共に可処分所得を増やし、さらに工場や開発施設建設のためのスペースも豊富な中国という国は、各種産業に多くの可能性を提供している。従来台湾で強いチップ製造業が、中国本土にも進出しており、今後も進出を続けると思われる。中国の既存の無線ネットワークは、無線通信事業者や電気通信会社に機会を提供する。中国本土でチップメーカーが早期に成功を収め、台湾のビジネスマンが移転してくるに伴って、資本も流入し、これが一般市民にも影響し、ハイテク消費財メーカーにとっては製品販売の機会となる 。不動産コストの上昇と経済の停滞のため消費者・企業共に可処分所得が下がっている米国では存続できない中小テクノロジー企業も、発展する中国市場では低コストで設計・通信分野の労働力を確保することができる 。既存のソフトウェア会社は、海外に出ていた中国人が帰国する動きを利用して、発展するハイテク地域にデザイン・センターを設立することができる 。

しかしながら、こうした企業が、変動する中国市場で生存するには、「根気と忍耐力と賢明な長期的戦略」がなければならない 。中国が政府の管理する国家から市場主導の国家へと転換する中で、外国企業はそうした変化に付き物のたどたどしいペースに合わせて、常に調整をしていかなければならない 。中国および台湾出身の社長を通じて、まさにそれを成し遂げているのが、UTスターコム社である。

無線通信産業においては、中国市場が、従来の電話線ではなく、それに変わる無線インフラの開発に積極的だったため、UTスターコムが中小市場に参入し、革新を通じて顧客ベースを広げることができた。同社は米国に本社を置く企業であるが、総収益の85%を中国からの収益が占めており、総収益は1997年の7,600万ドルから、2002年には9億2,500万ドルに達すると見込まれている 。また、UTスターコムの社員は大半が中国で雇用されており、同社にとってはコスト面での利点となっている。

中国および台湾出身の企業幹部がいるために、同社が中国市場での成功が市場での交渉能力にかかっていることを認識できたことは間違いない。現地の電気通信事業者との緊密なつながりを通じて、同社は事実上、現地企業として機能することができたため、他の外国企業に比べて有利な立場に立った。ノーテル・ネットワークス・チャイナ社の社長兼CEO、ロバート・マオによると、「(他の)外国企業にとっては、現地の通信事業者にどれだけベンダー融資を提供できるかが、競争上の主要因となった。」 UTスターコムは、現地企業とのつながりを利用して、この付加的なリスクなしで競争することができたため、エリクソン、モトローラ、ノーテル・ネットワークスなどの先発企業に対しても優位に立てた。

USスターコムは、地域無線ネットワーク構築の許可を政府に申請し、当時中国で唯一の電話会社だったチャイナ・テレコムと提携することによって、「リトル・スマート」を設立した。これは、従来の銅線技術と無線技術を融合した地域無線ネットワークで、現在では、価格に敏感なユーザー1,000万人の顧客ベースを有している。しかしながら、同社幹部は、より大きく、より豊かな都心部市場への進出を制限する政府の規制が、同社の成長を限定していることを認識している 。

USスターコムの例は、テクノロジー企業が中国市場でどう行動すべきかを示す重要な例である。外国企業は、組織の各層に中国人および台湾人の管理職者を導入することによって、実現しにくいが必要なコネクションを得て、事業の成功につなげることができる 。また、中国企業の多くは中国政府から多額の援助を受けているため、テクノロジー企業は、政府の容認を得るためには、自社の戦略を既存の中国企業と融合させる斬新な方法を考えなければならない 。

このように、ワイヤレスおよび電気通信市場では、米国企業が、困難な中国市場で事業の確立を実現させた興味深い例があるが、 他の米国テクノロジー企業も、中国の事業および消費者人口の経済的な強化に支えられて成功できる可能性がある。台湾企業が中国本土へ移転するに伴って流入する資本が、企業や消費者に情報技術を販売する企業にとっては新たな機会を提供する。そうした企業のある上級技術コンサルタントは、「中国では概して西側の製品に対する需要は大きい。また大勢の国民が資源流入の恩恵を受けるようになるに伴い、可処分所得が上昇し、(技術供給)業界にとっては多大な機会となる」と述べている。

中国の人的資源も、他のテクノロジー企業および産業に機会を提供する。前述のように、ベンチャーキャピタル企業のクリスタル・ベンチャーズは、破たんした米国のテクノロジー企業が中国の現地企業へ転換するための資金提供を計画している。こうした企業は、中国の豊富な設計者・科学者の労働力を活用することによって、コストを削減し、革新的かつ技術的に進んだ製品・サービスを生産することができる。各企業は、強化される中国経済の中で自らを確立すべく、大規模なデザイン・センターや研究所を建設している。

最後に、米国のチップメーカーは、中国本土に移転する台湾企業からの強力な競争に直面しているため、この商品産業でコスト効率を高めることを余儀なくされている。インテルのCEOクレイグ・バレットは、特に世界経済が低迷する中で競争が激化していることを認め、次のように語っている。「世界中どこでも、商品産業で利益を上げることは難しい。」 しかしながら、中国本土へ移転する台湾企業がコストを削減することができ、台湾が引き続き純輸出国であるならば、米国企業もコスト削減の手段を探さなければならない。中国人が海外から本国へ戻る傾向が今後も続き、中国の大学を卒業する技術者・科学者も同様に増え続けるとすれば、米国のチップメーカーは、中国を事業に活用する方法を見つけなければならない 。バレットは、中国には「物理的インフラと教育インフラがあるほか、(チップ製造)技術を誘致するための政府の支援がある」と語る 。バレットによると、インテルが中国に組立工場と試験施設は持つが製造施設を置いていない理由は、米国政府の輸出禁止措置である。次項では、こうした禁止措置の影響について述べる。

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