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2003年3月 JEITAニューヨーク駐在・・・荒田
良平
「米国のIT企業の対中国観」 |
7. 米国企業における中国人人材 質問 (7): 貴社では、製品設計の分野で、どの程度活発に中国人の人材を開拓しているか。プロセス設計、研究、開発の各分野ではどうか。 米国企業における中国人技術系社員採用の実態 中国は、米国のテクノロジー企業に、さまざまな人的資本を提供する。 ほぼ無尽蔵と思われる中国本土の製造業労働力の存在が、米国企業にとっては工場設立の機会となっていることに加えて、米国内の施設で中国人の技術系の人材を積極的に雇用する企業も多い。ほとんどの企業は技術部門で中国人を採用しているが、海外へ出る中国人の中には、技術系の能力を入社の手段とした後、米国の企業内で管理職としてのキャリアを積む者も多い 。これは、米国のテクノロジー企業が将来中国に設計施設を確立しようとする場合に、社内で育成した中国人管理職を彼らの母国に配置する可能性につながる 。 現在、米国のテクノロジー企業は、プロセス設計より製品設計や研究開発の分野で中国人技術者を採用しているようであるが、これは主として市場における技術者の専門分野の比率に基づく現象であると思われる 。例えば研究開発スタッフの何%は中国人とすべき、という「目標」を設定している企業も数社あるが、このことは、多くの企業が中国を貴重な人的資本の供給源と見なしていることを示している。現在、米国の労働力の中では、研究開発分野の技術者が非常に多く、製品設計がこれに続いているが、多くの企業の意見では、中国の教育制度は設計分野の課程を強化・開発しているため設計技術者を多く育成しており、米国テクノロジー企業内の構成も今後変わっていく可能性が高い 。
質問 (8): 毎年、中国で教育を受けた技術者・科学者が増加している中で、中国企業が単なる製造業から設計の分野へと移行していることに、どのような脅威を感じているか。 製造から設計への移行 本報告書でも数カ所で言及されている通り、中国には、膨大な、ほぼ無尽蔵の、かつ拡大する人的資本の基盤が存在し、中国企業と米国企業の両方に機会を提供している。中国のエリート校だけでも、技術・科学分野の年間卒業者数は、米国全体の同分野の卒業者数を上回る 。こうした技術知識を持つビジネスマン中間層は、業界専門家によると「実際的、野心的、勤勉で、教育程度が高く、毛沢東革命の影響を受けていない新しいグループ」であり、現在、中国企業の上級指導層の一部となりつつある 。 このグループは、海外から中国に戻り、自分の会社を設立したり、既存企業の高級幹部としてキャリアを完了しようとしている中国人の一団を補完する存在である 。2002年3月に開催されたシリコンバレー中国人技術者協会の会議のトピックは、中国のワイヤレス産業においていかに「米国の専門知識と台湾のハイテク体験を融合する」か、というものだった 。 こうした動きは、中国で生まれ中国で教育を受けた専門職者の増加と相まって、米国テクノロジー企業にとっては、機会となると同時に脅威ともなる。前述の米国政府による輸出禁止措置が解除または改正されて、米国企業が中国本土に設計・製造工場を設立できるようになれば、これらの企業はこうした優秀な人的資本を利用する機会を与えられる 。 一方、たとえ禁止措置が解除されたとしても、米国で専門職経験を積んで母国に戻る中国人の多くは、自ら事業を設立することを目指す 。中国で企業に入社する帰国者の場合も、台湾人および中国人経営の企業が増えているため、どの企業に入るか選択の幅が広がる。そして、帰国者のうちかなり多くが、選択の余地があれば台湾および中国系企業で働くことを選ぶのではないかと思われる 。 同様に、米国政府の禁止措置が続いた場合には、米国テクノロジー企業が中国に工場を設立しようとすると、旧式の工場しか建てられず、効果的に競争できないため、米国企業が中国での製造施設立地を見合わせる可能性が高い 。しかしながら、台湾および中国系の企業は、貴重な人的資本を利用することができ、その結果コストを削減できる。そして、価格を下げてコスト削減を顧客に還元することによって米国との競争力を高めるか、あるいは米国企業の製品と同等の価格を維持することによって、価格に柔軟性を持たせつつマージンを増やすことができる 。いずれにしても、米国テクノロジー企業にとっては不利な状況となる。 中国が、米国ハイテク企業にとって極めて価値のある人的資本を提供することは事実であるが、米国政府の禁止措置は、そうした価値を活用する際の障壁となる。海外から戻った中国人が自分の会社を設立したり、国内企業の経営陣に参加する傾向に加えて、中国で教育を受け、専門職として中国にとどまる技術者・科学者が増えているため、専門知識を持つ中国人の米国離れは、今後効果的な競争の妨げとなる。 |
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