2003年6月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

米国における電子政府関連政策の動向
(その2)


1. 連邦エンタープライズ・アーキテクチャ(FEA)の構築

(1) 連邦政府におけるエンタープライズ・アーキテクチャ構築の経緯

 先月の本駐在員報告で、電子政府イニシアティブの検討・選定にあたり連邦政府のエンタープライズ・アーキテクチャの手法が活用されたと書いた。電子政府のような巨大なITシステム構築では、個々の要素システム間の相互運用性を確保するため、システム全体の設計図が重要になるのであるが、米国の電子政府イニシアティブでは、さらに踏み込んで要素システム間の重複の特定・排除(つまり業務自体の統合・簡素化)を目指して、連邦政府全体の設計図を描こうとしている。
 そこで、以下に連邦政府のエンタープライズ・アーキテクチャについてもう少し詳しく触れておきたい。

 エンタープライズ・アーキテクチャとは、CIO協議会の定義に基づけば、「組織の使命、それを遂行するために必要な情報及び技術、並びにそれらの必要性の変化に対応し新技術を導入する移行過程を定義する、戦略的情報資産基盤であり、現行アーキテクチャ、目標アーキテクチャ、移行計画を含む」ということになる。この定義に従えば、連邦政府のエンタープライズ・アーキテクチャとは、いわばITシステムの視点から見た連邦政府全体の業務設計図ということになる。

 各省庁単位でのエンタープライズ・アーキテクチャ構築の動きは1990年代から始まっている。(発想自体は1980年代末にNIST(国立標準技術研究所)によって提唱されている。)クリントン政権発足に伴い1993年から行われた「国家成果評価(National Performance Review)」を踏まえ、1996年に連邦政府におけるIT投資の管理改善を図るための「1996年情報技術管理改革法(Information Technology Management Reform Act of 1996)」(いわゆるClinger-Cohen法)が成立したのであるが、このClinger-Cohen法において、各省庁に任命されたCIO(Chief Information Officer)が各省庁のITアーキテクチャ(エンタープライズ・アーキテクチャ)の開発・維持・導入促進に責任を負うこととなった。これを受けて、各省庁・機関のCIOがそれぞれのITアーキテクチャ(エンタープライズ・アーキテクチャ)の構築を進めることとなったのである。

 こうした中で、各省庁のCIO等で構成されるCIO協議会は、各省庁・機関のITシステム間の相互運用性の確保や情報の共有などの必要性から、1999年9月に各省庁・機関がエンタープライズ・アーキテクチャを構築する際の基本的考え方やその大まかな構造を規定した「Federal Enterprise Architecture Framework - Version 1.1」を、2001年2月にはエンタープライズ・アーキテクチャの実際の構築・更新・利用のための実用的なガイドである「A Practical Guide to Federal Enterprise Architecture - Version 1.0」を策定した。

図表13 Federal Enterprise Architecture Frameworkの概念図


(出展: 「Federal Enterprise Architecture Framework - Version 1.1」)  

 この時点で既に連邦エンタープライズ・アーキテクチャ(Federal Enterprise Architecture)という言葉が使われていることから、連邦政府全体を統合したエンタープライズ・アーキテクチャの構築が1990年代から進められていたように思われるかもしれない。しかし、実際にはこの時点では、国防省、財務省、エネルギー省などの先進的な省庁におけるエンタープライズ・アーキテクチャ構築の経験を他省庁に提供して参考にしてもらうという域を出ていなかったようである。
 そこで、先月の本駐在員報告で触れたように、ブッシュ政権下で2001年秋に省庁横断型の電子政府イニシアティブの選定にあたったクイックシルバー・タスクフォースは、連邦政府エンタープライズ・アーキテクチャの現状は「アーキテクチャの体を成していない」と断じ、電子政府イニシアティブの実行にあたっての主要な障害の一つとして「連邦アーキテクチャの欠如」を挙げて、その克服のためOMB(大統領府行政管理予算局)が政府全体のビジネス及びデータ・アーキテクチャの合理化を主導することとしたのである。

 これを受けて実質的連邦CIOであるOMBのMark Forman氏は、連邦エンタープライズ・アーキテクチャ(FEA)を中央集権的に構築する体制を強化すべく、2002年2月6日に連邦エンタープライズ・アーキテクチャ計画管理室(FEA-PMO)を設置するとともに、ソリューション・アーキテクト作業グループ(SAWG)という専門家グループを組織して各省庁による電子政府イニシアティブの導入をサポートさせることとした。このFEA-PMOは、先月の本駐在員報告で触れたOMBのCTO(Chief Technology Officer)によって指揮されている。

 

←戻る | 続き→

| 駐在員報告INDEXホーム |

コラムに関するご意見・ご感想は Ryohei_Arata@jetro.go.jp までお寄せください。

J.I.F.に掲載のテキスト、グラフィック、写真の無断転用を禁じます。すべての著作権はJ.I.F..に帰属します。
Copyright 1998 J.I.F. All Rights Reserved.