98年4月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国産業におけるIT活用の動向(後半) -7-


事例(4)
MCI(MCI Corporation)
 長距離電話・通信サービス事業者。本社ワシントンDC。96年営業収入185億ドル。97年推定IT投資約10億ドル。

ITプロジェクト:イントラネット・ベースの顧客サポート情報サービス「ウェブスター(Webster)」(96年5月完成)

推定コスト:50万ドル未満

技術内容
 イントラネットのコンテンツは、サンのES3000サーバ2台で提供。サーバソフトは、ネットスケープの「Fasttrack2.0」。クライアント側には、ペンティアム級のプロセッサと、IBMのOS/2及び同社製ブラウザ「ウェブ・エクスプローラ1.0」を搭載したPCを使用。コンテンツのサーチエンジンは、「ヴェリティ・トピック(Verity Topic)2.3」をベースに構築。コンテンツの保存は、インフォミックスのデータベースソフト「オンライン・サーバ7.2」によって行う。

プロジェクト概要
 ウェブスターは、顧客サービス担当者がイントラネット技術を応用してウェブ・ブラウザから主要な情報リソースにアクセスできるように工夫されたシステムである。収録されているのは、MCIが提供する各種サービスに関する情報、郵便番号データベース、市外局番マップ、通話料金表などである。ウェブスターが導入される以前は、メインフレームをベースにした「メンター(Mentor)」というシステムが同様の役割を果たしていたが、これにはサーチ機能がなかった上、利用には専用の端末装置が必要であった。

ウェブスターは、現在このシステムをウェブ・ベースに段階的に移行させている。(メンターに含まれている情報コンテンツへのリクエストがあると、データはいったんインフォミックスのデータベースに転送されてから、専従スタッフの手でHTML形式に変換されるのを待つ。このプロセスを、ウェブ・オーサリング・ツールで完全自動化しなかったのは、メインフレームの情報コンテンツが特殊な構造になっているため、元のコンテンツの形式を確認しながらHTMLコードを付加していく方が確実と判断されたためである。)97年5月までに、ウェブスターには11,000点の文書が収められ、36,000件のキーワードに従ってインデックス化された。システムは、同時に2,000人のユーザーをサポートすることができる。

主な成果
 ウェブスターは、顧客サービス部門のスタッフの間に高い評価をもって迎えられた。特に好評だったのは、サーチ機能が加わったことや、ウェブを使って通常のパソコンからアクセスできるという容易さであった。このシステムは、現在1日におよそ15万ヒットという高い頻度で活用されている。

実施企業及び顧客へのメリット
 MCIは、情報へのアクセスが高速化されたことで顧客サービスの平均通話時間が100秒も短縮できたとしている。これは、年間経費に換算して1,270万ドルの削減効果に相当するという。また、ウェブスターの操作は、メンターに比べて利用者本位でわかり易いため、従業員のトレーニングにかかる時間や費用が節約できる上、スタッフにかかるストレスも少なくなる。

 同社は、96年だけでウェブスターが総額3,200万ドルもの経済効果をもたらしたと推定している。今後は、中小法人顧客向けサービス・データベースの「ウィザード(Wizard)」も、ウェブスターにならってイントラネット化される計画である。


事例(5)
コモンウェルス・エレクトリック
(Commonwealth Electric Company)
 公立電力事業者でコモンウェルス・エナジー・サービスの一部門。本社マサチューセッツ州ウェアハム。96年営業収入4億5,300万ドル。(IT予算非公開)

ITプロジェクト:人事部門の電子文書管理(EDM)システム(完成時期非公開、導入期間は約4週間)

推定コスト:3万ドル

技術内容
 印刷物の入力にパナソニック製高速スキャナを使用。利用者10名までのライセンス契約に基づきEDMソフトウェア「ファイル・マジック・プラス」をウィンドウズ95搭載PCのLAN(「Banyan VINES」ベース)で利用。

プロジェクト概要
 コモンウェルス・エレクトリックは、経営プロセスの見直しを行った結果、人事部門の書類が100本のファイル・キャビネットを占領していることを発見した。これらの書類のうち、80,000点が職員に関する記録の類であり、現職員数がわずか1,200人の事業体としては極めて非効率的であるとの結論に達した。

 人事文書の電子化を決めた同社は、地元のシステム・インテグレータであるスポールディング社(Spaulding Company)に委託を行った。上に挙げた80,000点の文書のデジタル化が完了した現在も、同システムには毎週約100点の文書が追加されている。

主な成果、実施企業及び顧客へのメリット
 同社は、公益事業者として、事業や管理体制に関する記録を厳重に保存するよう義務付けられているが、規制当局の承認を得てこれらの書類を電子化し、災害対策のバックアップ・システムを完成させたところで、紙の書類の処分に踏み切った。その結果、年間4,000ドルの賃貸料金を必要としていた文書保管スペースが空き、紙の書類をファイリングするために費やされていた労働力(人件費に換算して7,000ドル)が節約された。また、書類の紛失やファイリングのミスに伴うコストも削減できた。

 同社の人事担当者は、PCの検索機能を利用して、必要な記録文書に瞬時にアクセスできるようになり、社の内外から寄せられる情報リクエストへの対応や、記録の更新が短時間でできるようになった。さらに、親会社であるコモンウェルス・エナジー・サービスへの情報転送(やはり公益事業規制により、同一の記録を保存するよう義務付けられている)も簡便化された。従来は、ハードコピーを郵送したり、ファックスしたりする必要があったが、電子化によって、ネットワークから伝送できるようになったのである。コモンウェルス・エレクトリックは、今後もプロジェクトの範囲を広げ、人事部門で扱う全ての記録をペーパーレス化したり、他のコモンウェルス系公益事業者全体の記録を統合化することを検討している。

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