98年5月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

NGI及びインターネット2の現状 -5-

NGI実行計画(Implementation Plan)の概要

(2)リソースと具体的な実行計画

 さて、目標は上に挙げた通りであるが、実際に誰がどのようにこれを実行していくのかというところについても、実行計画にはかなり詳細に記述されている。

まず、参加している連邦機関であるが、DARPADOENASANSFNISTNLM/NIHが名を連ねている。それぞれの機関が、上述の目標の細目それぞれについて、自らの既存プログラムとの関わりと具体的な開発計画等を説明しているが、「実行計画」そのものが各省庁の予算を議会に認めてもらうための資料という性格を持っていることから、どの細目でも独自の役割があるとしつつも同じような記述となってしまっているのはやむを得ないだろう。そのような記述を基に、各目標の中でのそれぞれの機関の特色を言うとすれば、次のようになるだろう。

第1の目標であるネットワーク技術については、DARPA(DOD)がインターネットのパイオニアとしての実績と最大の予算をもって、実質的なリーダーとなっている。

DARPAでは従来より防衛というミッション・クリティカルなアプリケーションの通信に適したネットワーク技術の開発のため、品質保証のQoS技術を中心に据えた「Quorum」と呼ばれる計画を進めており、これが第1の目標の下敷きとなっている。

DOEは上述のような経緯で、98年度は参加していない形を取っているが、実際にはCIC/LSNの中でネットワーク関連の研究はもちろん継続している。DOEもDODと同じように独自の研究ネットワークを有し、核研究などミッション・ドリヴンのアプリケーションに強いことから、ネットワーク技術ではDARPAと並び、全般に及ぶ研究を行っていく。

NASAもDOD、DOE程の予算規模はないが、独自の研究ネットワークを有し、航空宇宙というミッション・ドリヴンのアプリケーションとシステム・エンジニアリングに強いという面では両省と類似である。NASAの研究分野も全般にわたっており、ネットワーク・パフォーマンス測定、ネットワーク・インターオペラビリティスケーリング、QoS、ネットワーク・セキュリティ等に注力するとしている。

NSFはアカデミーとの緊密な関係を有し、既にvBNS(Very High Speed Backbone Network Service)(後述)という第2目標の前段階のベースとなるネットワークを運営していることから、他の省庁とはやや性格を異にしている。vBNSは既に5つのスーパーコンピュータ・センターとそのパートナー(Partnerships for Advanced Computational Infrastructure, PACI)、NSF傘下のNLANR(National Laboratory for Applied Networking Research)、多くの助成金を与えている大学や民間の研究所の間をつないでおり、広範囲のネットワーク技術の研究が成されている。ATM(Asynchronous Transfer Mode)上のIPv6も近く導入されることになっており、第1の目標に完全に沿った技術の研究が既に進められていると言える。

残るNISTは、従来より例えばIPv6の開発やテストへの参画や、ATMプロトコールのシミュレータの開発など、評価試験技術等に力を発揮してきている。また、暗号の分野ではPKIの確立などでも中心的な役割を果たしてきており、これらの分野で第1の目標達成に貢献する。

第2の目標の第1段階におけるリーダーはNSFである。それはすなわちvBNSが100倍のパフォーマンスのネットワーク・テストベッドのベースとなると言うことである。vBNSは、98年度中には100を超える大学/研究所をつなぎ、その接続速度もDS3(45Mbps)のところはOC-3(155Mbps)にアップグレードしていく(バックボーンは既にOC-12(622Mbps)がほとんど)。続いて目標1や目標3で開発された技術やアプリケーションを入れていくという形を取る。

NASA、DOD、DOEはそれぞれのネットワーク(図1参照)のアップグレードを行いつつ、ワシントン、シカゴ、シリコンバレーの3カ所にNGIエクスチェンジ(NGIX)を設置し、vBNSや他のネットワークとの接続を行っていく。 第2目標の第2段階、1000倍のパフォーマンスのネットワークについては、まだ明確なベースがあるわけではないが、DARPAが首都圏で始めようとしている5つのノードをWDM技術により20Gbpsでつなごうとしている計画がベースの一つとなる。NSFはサン・ディエゴ・スーパーコンピュータ・センター(SDSC)とナショナル・センター・フォー・スーパーコンピューティング・アプリケーションズ(NCSA、イリノイ州)との接続を端緒とする。NASAも少なくとも2カ所のNASAサイトをDARPAの高速テストベッドに接続していく。

→(ここに挿入) 図1.

NGIのアーキテクチャー 最後の目標である革新的アプリケーションの開発については、その候補が多数存在することから、選定プロセスなどが詳細に規定されている。開発に参画しテストすることができる機関は、NGIファンドを受けている上述の機関の他、NGIに密接な関係を有する政府系研究機関に原則限られており、かつアプリケーション開発予算は目標1、2の技術開発に大きな寄与があるもの以外は、NGIファンドからではなく、それぞれの機関での手当が求められている。国家安全保障のためのDODのアプリケーション及び航空宇宙エンジニアリングのためのNASAのアプリケーションという単一機関にのみ関係し国家として不可欠であるもの以外は、専門分野別並びに技術分野別(専門分野横断的)に関連グループを組織して、アプリケーションの選定、開発に協力して当たることとされている。 それぞれの関連グループの参加機関と候補とされるアプリケーションは以下のようになっている。

(専門分野別関連グループ)
1
健康
NIH、AHCPR、NASA 画像情報の通信を含む遠隔医療、患者情報を含むマルチメディア・ライブラリー、遠隔操作/診断のためのテレプレゼンス・アプリケーション
2
環境
NASA、NSF、NOAA、EPA、
DOL、USDA
気象予報協力、チェサピーク湾バーチャル環境、中規模気象研究のための分散モデル研究所、リアルタイム環境データ交換
3
教育
DOED、NASA、NSF 遠隔学習、ユニバーサル・アクセス
4
生産
NIST、NASA 昆虫型マシンの遠隔アクセスとシミュレーション、走査顕微鏡の遠隔ロボット操作
5 危機管理 FEMA、NOAA、NASA、
DOD/DARPA、USGS、
DOL、CEOS、G-7/GEMINI、
GDIN、NOAA/NESDIS
危機状況(自然災害を含む)下での協力、危機状況下でのデータ・アクセスと拡散、セキュリティーとプライバシーの政策と執行、危機状況下での遊道コンピューティングとネットワーク管理
6 基礎科学 NSF、NOAA、NASA、NCRR 基礎的な科学と関連する現象を洞察するのに寄与するようなアプリケーション(今後グループとして検討)
7 連邦情報サービス 1 協同技術:
NIST、NASA;
(例)ネットワークベースのビデオコンファレンス、データベース共有
2 分散コンピューティング技術:
NSF、NASA
3ディジタル・ライブラリー技術:
NSF、NASA、NIH
4 遠隔操作技術:
NIST、NASA、NIH、NSF;
(例)反作用感応型の遠隔手術
5 セキュリティー/プライバシー技術:NIST、NASA
各機関;アーカイブ情報へのアクセス、情報統合、データ・マイニング、電子商取引 (技術分野別関連グループ)

(注)各機関の正式名称
DARPA:Defense Advanced Research Project Agency
DOE:Department of Energy NASA:National Aeronautics and Space Administration
NSF:National Science Foundation
NIST:National Institute of Standards and Technology
NLM:National Library of Medicine NIH:National Institute of Health

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