(ソリューション・ビジネスへの歩み)
ワング・ラボラトリーはミニコンピュータとワープロソフトウェアのメーカーとして誕生した企業である。80年代初頭までに、この2つの市場で成功をおさめ、中でもミッドレンジ、ハイエンドのシステムを対象にしたサービスを提供してきた。当時、主流であったIBMやユニシスのメインフレームに比べると、ワングのミニコンはその処理能力の高さに定評があり、コンピュータ市場におけるミニコンのシェアは急増すると期待されていた。同市場は70年代末まで、急成長を記録していたのも事実である。
ところが、80年代半ばにかけて、ワングの利益率は低迷しだした。このような状況に対応するために、ワングはオープンシステムを推奨する新製品提供へと路線変更を試みた。その一貫として、89年までに、全ての製品をUNIXベースのネットワークオペレーション用に変換した。しかし、パソコン市場の台頭を戦略の視野に入れていなかったのが同社の命取りとなってしまった。結局、ミニコン・パラダイムから抜けきることができなかったワングは92年に倒産を宣告する状況にまで追いつめられてしまった。
その後、ワングはいくつかの生産拠点を閉鎖すると同時に従業員数を半減し、そしてより利益率の高いソフトウェア・インテグレーション分野への転身を図るため、技術開発を強化するという新戦略を打ち出して再生を図ってきている。ただ、他分野への移行を試みているワングが実感しているのは、市場の流れに対応しきれなかった敗者としてのイメージが今でも根強く残っているという点である。ワングはこのような逆境を打破するために、積極的に企業の買収活動を展開したり、リストラや人員整理などを行い、ワング・ラボラトリーはワング・グローバルコーポレーションへと生まれ変わりつつあるのである。同社の転身はソフトウェア・インテグレーターとしての再生、そして、ソリューションベンダーとへの移行の2段階で進みつつある。
ステップ1:イメージング戦略
ソリューション・ビジネスベンダーとしての第一歩は、92年に同社が倒産に追い込まれたことに端を発している。当時、既にワングの自由になる資産は底をついていたことから、否応なく資本集約的な業務から撤退することが要求されたのである。CEOリチャード・ミラーは従業員を半減し、支出を7億ドル減少させた。
ミラーの戦略の一つとしてIBMとのパートナーシップが上げられる。このパートナーシップでのワングの地位はIBMメインフレームの単なる再販業者(VAR)というものであったが、この提携関係を通じて、ワングは同社のイメージングソフトウェアをIBMのオフィスオートメーション・ソリューション製品に組み込むことができたのである。ミラーは同社のこのような新たな戦略を航空機製造業のノウハウに類似していると表現した。と言うのも、航空機製造業では業界トップの水準を誇る部品業者がそれぞれのパーツを持ち寄り、航空機メーカーが最高水準の最終製品を製造するからである。このような発想から、ハードウェアの製造を重視し、マルチベンダー志向を支援するというのがワングの全社的な方針として打ち出されるに至った。
IBMとの提携により、ワングは以下の3分野で業界から高い評価を受けるまでに成長した。イメージング開発を行うソフトウェアビジネス、ワングにより再販される様々な製品に対して提供される充実したハードウェア・カスタマーサービス部門、さらに、ハードウェアとソフトウェアのインテグレーション・プロジェクトに携わるインフォメーション・サービス部門の3つである。
このようにワングは「オフィス・インテグレーション」を実現する技術を提供するという分野を強化することで、それまでの利益率の低いハードウェア製造業務からの転身を図ってきたのである。例えば、他社のハードウェアを活用しつつも、ワングのイメージング・アーキテクチャーを用い、文書をオンラインフォーマットにデジタル化するというオフィス2000というサービスがその一例である。その他には、ビジネスプロセス・マネジメントというサービスがあり、イメージング技術やC/Sシステムの利用法を改善し、大量の文書を扱うオフィス業務の効率化に貢献した。
ステップ2:ソフトウェアからソリューション・ビジネスへの転換
イメージングソフトウェアのメーカーへ転身し、ある程度の成功を収めたとはいうものの、企業全体でみた場合の収益率はそれほど改善されなかったという結果に終わった。さらなる方向転換が議論され始めたのはミラーの退陣が決まった94年のことである。それまでワング・インフォメーションサービスの副社長を務めていたジョー・トゥッチが新たなCEOに昇格し、同社がソフトウェア製造よりも収益率の高いサービス部門――ソリューション・ビジネスへの移行を狙っていることの表れであると認識された。転換期の新戦略として具体的には、ソリューション・ビジネスを強化するために以下の3つが打ち出された。
1. サービス内容の拡充
IBM、ヒューレット・パッカード、ノベル、パッカードベル、コンパックなど多くのベンダーと協力関係を築き、ハードウェア、ソフトウェアのカスタマーサービスを充実させてきた。前述のオフィス2000では、オフィスネットワークの設計から実際の導入までを行った。大規模なLANを構築した事例からも分かるように、複雑なネットワークの設計、導入、管理からメンテナンスまで、幅広いサービスを提供できるようになった。
2. 経営資源の拡大(積極的な買収)
95年までにソリューション・ビジネスに生き残りの道をかけるという方針が確定された。同社はソリューション・ビジネスに経験のある企業を積極的に買収するという戦略により、その目的を達成しようとしてきた。その結果、97年から98年の間に、サービス部門に従事するスタッフ数は3万3,000人に倍増したばかりか、ヨーロッパ、中東、アフリカでも成功を収め、フォーチュン500企業に名を連ねるに至った。但しその一方で、多くの買収を短期間に行ったため、企業の収益体質は悪化せざるを得なかった。その結果、赤字基調が継続しており、専門家の中にはワングの最近の成長は、業務効率化によって達成されたものでなく、単なる買収を繰り返したことにより収入が一時的に増加しているに過ぎないと警告を発する者もある。
同社の主な買収は以下の7件である。(括弧内は買収年月)
- オリベッティ・ソリューション (98年3月)
オリベッティの子会社で政府機関や大企業にITソリューションの開発、導入、管理を提供しており、中でも金融、政府部門、公共サービス、流通業などの顧客が多い。買収金額は36億ドルと発表されている。
- アドバンスト・パラダイム(Advanced Paradigms) (96年11月)
マイクロソフトのシステムに特化したLANやWANを対象としたサービスを提供しており、ネットワークアーキテクチャやデザインを強みとしている。
- I-NET (96年8月)
民間、政府機関の両方にクライアントサーバー、ネットワーク、デスクトップ管理等のサービスを提供している。
- データサーブ・コンピュータ・メンテナンス
(Dataserv Computer Maintenance) (96年5月)
小売業界におけるPOSシステムやデスクトップ製品のサポートサービスとメンテナンスを行っている。その他にも、金融、保険、流通、製造業などを対象に、アプリケーションヘルプデスク、ネットワークインテグレーションサービスなどを提供している。
- アベイル・システムズ(Avail Systems) (95年12月)
クライアントサーバー・ネットワークにおける情報の保存、アーカイビング等を支援するソフトウェア開発ベンダー。買収に伴い、ワング・ソフトウェア・ストレージ・マネジメントグループ(Wang Software Storage Management Group, Inc.)と改名された。
- BISS (95年10月)
ネットワーク環境のデザインから導入までをサポートする英国企業。
- シグマ・イメージング・システム(Sigam Imaging Systems) (95年7月)
大量の文書を扱う企業向けのイメージングソフトウェアを開発、販売している。特にウィンドウズNT向けのサービスが充実している。買収に伴い、ワング・ソフトウェアN.Y.と改名された。
3. ソフトウェア部門の売却
以上のようにソリューション・ビジネスが強化される一方で、同社のソフトウェア部門の収益は次第に低迷する傾向にあった。これを機にソリューション・ビジネスへの本格的な移行を進めようとソフトウェア部門の売却が検討され始めた。最終的には、ワングのソフトウェア部門は、97年3月、イーストマン・コダックに2億6,000万ドルで売却されるという形で幕を閉じた。コダックに売却されたのは、ワング・イメージングソフトウェアに関わる技術開発、製造、マーケティング、営業など全ての部門であり、売却部門の従業員数は900人に上った。この売却は、ワングがソリューション・ビジネスのプロとして生き残っていこうという強い意志の表れであると捉えられた。
(ソリューション・ビジネスと今後の展望)
ワングはこれまで培ってきたネットワーク・インテグレーション分野における経験を活かし、更なる成長を遂げることを期待している。専門家の中には2000年までにはIBMやEDSなど業界トップのインテグレーターにひけをとらないプレイヤーになると予測するものもいる。特に、デル、シスコ、マイクロソフトなど業界最大手の企業と提携関係を築いており、デスクトップ、ネットワーク、ソフトウェア市場それぞれでの活躍を狙う戦略が窺える。ネットワークビジネス関連ではC/Sシステムにも取り組んでいるが、あくまでメインフレームを中心にしたハイエンド製品を企業コンピューティングの基本に据える戦略を打ち出している。その一例として、インターネット技術を利用したウェブホストアプローチで、新たな企業コンピューティング環境を構築するという新しい試みが進んでいる。
中でも、同社が強みとしている業界は金融、流通、通信といった分野である。このような分野を対象にサービスを提供してきた企業を買収したことによって、必然的にワングの得意分野が定められてきたという構図である。現在、顧客満足度の概念が定着してきたことともあいまって、多くの企業がカスタマーサービスの充実を願っている状況にある。また、EC、スマートカード、POSシステムの拡充も顧客満足度を高める一つの手段として考えられている。そこで、ワングは以上のような新たなサービスを支援することこそが、ソリューション・ビジネスの強化に他ならないと認識している。
ワングの得意分野を業務内容で見ると、ネットワークやデスクトップ・アウトソーシングなどに代表される資産管理業務であり、ソリューション・ビジネスの中でも最大のシェアを誇っていると言われている。表7からもわかるように、特に近年、政府機関向けサービスが増えつつある。また、諸外国の金融機関との契約締結も新たな傾向として見受けられる。
表7: 最近の代表的な契約
発注元 |
年 |
金額 |
内容 |
Immigration and Naturalization Service |
1997 |
5億3,900万ドル |
デスクトップ管理、ネットワークサポート |
NASA |
1998 |
TBA |
デスクトップアウトソーシング |
General Services Administration |
1998 |
TBA |
デスクトップアウトソーシング |
San Paolo di Torino Bank
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1998 |
5,600万ドル |
ネットワーク管理 |
©Washington|CORE
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